プロフィール X様 1995年 E社入社、ディスプレイ材料開発、半導体用フォトレジスト開発を経て2003年UCLAへ留学し超分子化学を学ぶ。2005年からE社ライフサイエンス事業での研究に従事、米国駐在員をへて2013年よりライフサイエンス向け新規探索研究を担当。 イントロダクション 量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。 そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。 本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、事業会社の視点からディープテック・スタートアップとの連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。 今回は、E社で実施しているディープテック・スタートアップ(以下、DTSU)との連携について、X様に話を聞いた。(以下、本文敬称略) SUが入居する新たな研究拠点を設立し、新規事業創出に繋がる共同研究を推進 ─―御社では、新規事業創出に向けに新研究所を開所したと伺っております。新研究所では、具体的にどのような取組みを行っているのでしょうか。 X: 新研究所では、「ライフサイエンス研究の深堀と社会実装」、「インフォマティクスの強化」、「オープンイノベーション」の3点の施策を通じて新規ビジネスの創出を目指しています。具体的に「ライフサイエンス研究の深堀と社会実装」では、マイクロバイオーム*を核にしたライフサイエンス分野の研究を進め、その成果やアイデアを早期に社会実装することを目指しています。また、「インフォマティクスの強化」では、最先端のシミュレーション・データサイエンス的手法を深耕することで製品開発力の強化を目指しています。最後に、「オープンイノベーション」では、オープンイノベーションの拠点としてアカデミアやSUとの共同研究により、技術の相互補完と強化を実施しています。施設内にはSU用のエリアを設けており、複数のSUに入居いただきながら、共同研究を進めています。 *マイクロバイオーム・・・土壌や水中、人体の表面や腸内に存在している微生物コミュニティ ─―「施設内に入居いただきながら、共同研究を進める」というのは、非常に特徴的な取組みだと思います。施設では、どのような分野の研究を実施しているのでしょうか。 X: マイクロバイオームを軸として、医薬品から食品まで幅広く研究開発を進めています。 ─―どのような背景からマイクロバイオームに着目するようになったのでしょうか。 X: 大学との包括的な共同研究がきっかけでした。医薬品はもちろんのこと、様々な分野で発展するマイクロバイオーム分野の将来性を見込んで、研究をスタートさせましたが、さらに取組みを推進していくために、研究所を設立しました。 コミュニケーションを取りやすい環境が円滑な共同研究の推進に寄与 ─―続いて、ソーシング活動について伺っていきたいと思います。新研究所に入居いただく企業、共同研究を実施する企業は、どのように決めているのでしょうか。 X: 設立から2年半ほど経ちますが、当初は「マイクロバイオーム」という分野を軸に、該当するベンチャー企業をリストアップし、当社からお声掛けしていました。その中で面談などを行いながら、当社の取組みとマッチする企業に最終的に入居いただいています。 ─―中でも、SUを評価する際に重視していたポイントや条件はございますか。 X: まずは、「共同研究が可能な企業」という条件を設けていました。施設に入居いただき、共同研究を行うことを前提としています。また、当社の技術との親和性や技術力の高さ、ユニークさは一つの指標になりますね。 ─―SUに入居いただくことについては、どのようなメリットがございますか。 X: 「コミュニケーションが取りやすい」という点が一番のメリットだと思います。研究開発では、度々方向転換が生じることがありますが、近くにSUの方々がいるからこそ、気軽にそうした相談を行うことができます。円滑に研究を進めるという観点で、非常に重要な要素だと考えています。 ─―一方で、SUに入居してもらうことについて、課題はございますか。 X: 現状大きなトラブルは生じていませんが、異なる文化を持つ企業が入居してくることもあり、研究所の管理面などで配慮していることはありますね。また、SU間でのコンフリクトや秘密保持は特に注視しているポイントです。基本的にコンフリクトが生じるような研究は行わないようにしています。 専門人材の獲得と社内人材の育成が目指される ─―DTSUとの連携を専門とする部署はございますか。 X: 研究を管理する部門が連携の進め方を検討することが多いですが、問い合わせ先や担当部門が一律に固定されているわけではありません。連携先によって柔軟に担当部門を変更している形ですね。 ─―新研究所では、専門性の高い知識が必要とされるかと思います。どのように必要な人材を獲得しているのでしょうか。 X: 全社的な採用プロセスに則って採用活動を行っていますが、専門人材の獲得に課題を感じています。原因としては、採用プロセス自体ではなく、新研究所で求められる専門性を持った人材のマーケット規模が小さいことが影響していると思われます。また、社内の人材を育成し、専門家を育てる試みも行っています。 連携の幅を広げ、新しい事業領域に着手していきたい ─―本日はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございました。最後に、今後の新研究所での取組みの方向性について教えてください。 X: E社グループでは特定の研究機関や企業に縛られることなく、幅広い様々な企業との連携を推進していくことができると感じています。今後は、サプリメントや食品など、連携の幅を広げ、新しい事業領域に着手していきたいと考えています。 作成者:PwCコンサルティング合同会社 インタビュー実施日:2024.1.10
X様
イントロダクション1995年 E社入社、ディスプレイ材料開発、半導体用フォトレジスト開発を経て2003年UCLAへ留学し超分子化学を学ぶ。2005年からE社ライフサイエンス事業での研究に従事、米国駐在員をへて2013年よりライフサイエンス向け新規探索研究を担当。
量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。
そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。
本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、事業会社の視点からディープテック・スタートアップとの連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。
今回は、E社で実施しているディープテック・スタートアップ(以下、DTSU)との連携について、X様に話を聞いた。(以下、本文敬称略)
SUが入居する新たな研究拠点を設立し、新規事業創出に繋がる共同研究を推進
─―御社では、新規事業創出に向けに新研究所を開所したと伺っております。新研究所では、具体的にどのような取組みを行っているのでしょうか。
X: 新研究所では、「ライフサイエンス研究の深堀と社会実装」、「インフォマティクスの強化」、「オープンイノベーション」の3点の施策を通じて新規ビジネスの創出を目指しています。具体的に「ライフサイエンス研究の深堀と社会実装」では、マイクロバイオーム*を核にしたライフサイエンス分野の研究を進め、その成果やアイデアを早期に社会実装することを目指しています。また、「インフォマティクスの強化」では、最先端のシミュレーション・データサイエンス的手法を深耕することで製品開発力の強化を目指しています。最後に、「オープンイノベーション」では、オープンイノベーションの拠点としてアカデミアやSUとの共同研究により、技術の相互補完と強化を実施しています。施設内にはSU用のエリアを設けており、複数のSUに入居いただきながら、共同研究を進めています。
*マイクロバイオーム・・・土壌や水中、人体の表面や腸内に存在している微生物コミュニティ
─―「施設内に入居いただきながら、共同研究を進める」というのは、非常に特徴的な取組みだと思います。施設では、どのような分野の研究を実施しているのでしょうか。
X: マイクロバイオームを軸として、医薬品から食品まで幅広く研究開発を進めています。
─―どのような背景からマイクロバイオームに着目するようになったのでしょうか。
X: 大学との包括的な共同研究がきっかけでした。医薬品はもちろんのこと、様々な分野で発展するマイクロバイオーム分野の将来性を見込んで、研究をスタートさせましたが、さらに取組みを推進していくために、研究所を設立しました。
コミュニケーションを取りやすい環境が円滑な共同研究の推進に寄与
─―続いて、ソーシング活動について伺っていきたいと思います。新研究所に入居いただく企業、共同研究を実施する企業は、どのように決めているのでしょうか。
X: 設立から2年半ほど経ちますが、当初は「マイクロバイオーム」という分野を軸に、該当するベンチャー企業をリストアップし、当社からお声掛けしていました。その中で面談などを行いながら、当社の取組みとマッチする企業に最終的に入居いただいています。
─―中でも、SUを評価する際に重視していたポイントや条件はございますか。
X: まずは、「共同研究が可能な企業」という条件を設けていました。施設に入居いただき、共同研究を行うことを前提としています。また、当社の技術との親和性や技術力の高さ、ユニークさは一つの指標になりますね。
─―SUに入居いただくことについては、どのようなメリットがございますか。
X: 「コミュニケーションが取りやすい」という点が一番のメリットだと思います。研究開発では、度々方向転換が生じることがありますが、近くにSUの方々がいるからこそ、気軽にそうした相談を行うことができます。円滑に研究を進めるという観点で、非常に重要な要素だと考えています。
─―一方で、SUに入居してもらうことについて、課題はございますか。
X: 現状大きなトラブルは生じていませんが、異なる文化を持つ企業が入居してくることもあり、研究所の管理面などで配慮していることはありますね。また、SU間でのコンフリクトや秘密保持は特に注視しているポイントです。基本的にコンフリクトが生じるような研究は行わないようにしています。
専門人材の獲得と社内人材の育成が目指される
─―DTSUとの連携を専門とする部署はございますか。
X: 研究を管理する部門が連携の進め方を検討することが多いですが、問い合わせ先や担当部門が一律に固定されているわけではありません。連携先によって柔軟に担当部門を変更している形ですね。
─―新研究所では、専門性の高い知識が必要とされるかと思います。どのように必要な人材を獲得しているのでしょうか。
X: 全社的な採用プロセスに則って採用活動を行っていますが、専門人材の獲得に課題を感じています。原因としては、採用プロセス自体ではなく、新研究所で求められる専門性を持った人材のマーケット規模が小さいことが影響していると思われます。また、社内の人材を育成し、専門家を育てる試みも行っています。
連携の幅を広げ、新しい事業領域に着手していきたい
─―本日はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございました。最後に、今後の新研究所での取組みの方向性について教えてください。
X: E社グループでは特定の研究機関や企業に縛られることなく、幅広い様々な企業との連携を推進していくことができると感じています。今後は、サプリメントや食品など、連携の幅を広げ、新しい事業領域に着手していきたいと考えています。
インタビュー実施日:2024.1.10