プロフィール アイエヌジー証券会社投資銀行本部を経て、2002年にSBIグループのバイオ・ヘルスケア専門VC、バイオビジョンキャピタルの立ち上げに参画。2005年にSBIインベストメント(株)に転籍後、投資部門にて国内外のベンチャー投資育成に携わる。 2016年からCVC事業部にて事業会社と共同で設立運営するコーポレート・ベンチャーキャピタルファンドを運用。2020年より現職。 イントロダクション 量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。 そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。 本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、事業会社の視点からディープテック・スタートアップとの連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。 今回は、SBIインベストメント株式会社で実施しているディープテック・スタートアップ(以下、DTSU)との連携について、加藤様に話を聞いた。(以下、本文敬称略) 目的に応じた複数の投資スキームにより積極的な投資を推進 ─―SBIインベストメントでは、CVC事業を立ち上げ、投資事業を実施していると伺いました。まずはCVC事業部の事業内容について、教えてください。 加藤: SBIインベストメントとしては、ジェネラルファンドとCVCファンドの2つのスキームがあります。ジェネラルファンドでは、多くの金融機関や事業会社から資金を集めてファンドを組成しています。一方、CVC事業部が運用するCVCファンドでは、事業会社と当社が共同でファンドを組成しています。 ─―ジェネラルファンドとCVCファンドでは、どのような目的の違いがあるのでしょうか。また、各取組みのDTSUとの関わりを教えてください。 加藤: ジェネラルファンドは、キャピタルゲインの獲得が主目的になっています。投資対象として、DTSUが含まれているかたちです。一方、CVCファンドは財務規律を堅持しつつ、事業会社の戦略リターンの獲得を重視しています。当社が共同で運用するCVCファンドの投資家はメーカーが多く、オープンイノベーションの推進を目的にしていることが多いです。その文脈でDTSUとの関わりがありますね。 ─―CVC事業部にはどのような経歴の方が多いのでしょうか。 加藤: 最近は人材の多様性がかなり進んできています。金融以外のバックグラウンドの人材も積極的に採用していますね。経営企画部門、事業開発部門、技術開発部門など様々なバックグラウンドの方々を採用し、前職での知見を事業会社やSUとの連携に生かしてもらっています。 CVCファンド参考:https://www.sbinvestment.co.jp/features/open-innovation/ 事業会社のナレッジを活かしDTSUの技術を評価 ─―DTSUとの連携という観点では、CVCファンドの取組みが特徴的ですね。ソーシング活動においては、どのような取組みを実施しているのでしょうか。また、SUからのアイデアや製品・サービスの提案を募集することはございますか。 加藤: DTSUに関連するイベントに参加したり、専門誌や新聞等の公開情報を確認したりしています。それ以外にも、投資先企業や事業会社、投資家、大学等のネットワークから紹介いただくケースも多くありますね。また、HPでは事業会社やSUからの問い合わせも受け付けています。 ─―DTSUとの連携を検討するにあたり、どのような評価を実施しているのでしょうか。 加藤: ビジネス・法務・財務デューデリジェンス(以下、DD)はもちろんのこと、DTSUとしては技術DDを重視しています。事業会社の研究所や開発部門のナレッジを生かし、SUの技術を確認しています。 ─―事業会社のナレッジを生かせるのは、CVCファンドならではですね。技術の評価において、特に着目している観点はございますか。 加藤: 技術の新規性、競争優位性、またどういったところに課題を抱えているかは確認していますね。加えて、事業会社の技術との親和性も重要なポイントになります。また、ジェネラルファンドでも同様ですが、今後成長が見込まれるSUなのかという観点は重要ですね。 ─―SUの技術を確認するなかで、SUが抱える課題に対して事業会社が支援することで技術の実現性を高められることもあるのではないかと思います。SUの技術開発に対して、何らかの支援を行うことはございますか。 加藤: 研究者やエンジニア間でディスカッションを実施し、共同開発や開発支援を行うケースはありますね。事業会社側の窓口としては、経営企画部門や新規事業部門が多いですが、研究所の企画部門が担当しているケースもあります。案件ごとに関係部署を巻き込んでいくことが、SUとの連携・技術支援において重要になると思います。 適切なリスク把握が連携を推進する ─―これまで様々なオープンイノベーション案件を推進してきたと思いますが、ノルマやKPIは管理されていますか。また、DTSUとの連携にあたって重視されていることはございますか。 加藤: 案件数や金額に対するノルマ・KPIは設定していない場合が多いですね。事業会社とシナジーがあるのか、SUとして今後の成長が見込まれる企業なのかという観点が大切だと思います。DTSUとの連携では、事業戦略を重視しており、入念に検討を重ねながらもリスクを取って投資を実施しています。また、実行体制を構築するためにも、各事業会社の事業戦略を理解したうえで、どのような連携が可能なのか検討するようにしています。 ─―実際にDTSUとの連携を推進する中で、モニタリングのポイントやマイルストンはどのように設定しているのでしょうか。 加藤: DDを実施する際に逐次、今後の課題をモニタリングしています。また、マイルストンは、事業計画・開発計画などをもとに、技術開発や事業の節目、投資の観点から価値が変化するタイミングを設定しています。当初の仮説通りに開発が進捗しているのか、進捗していないならどのような課題があるのか、その課題は解決できるのか等を判断できる指標として、マイルストンを設定しています。 成否に関わらず経験を適切に評価することが今後の連携促進につながる ─―最後に、事業の中で様々な企業を見られてきたと思いますが、SUとの連携が上手くできている事業会社と上手くいっていない事業会社では、どのような違いがあると思われますか。また、今後取組み予定のことや、目標等がございましたら、教えてください。 加藤: 成功事例だけでなく、失敗事例を含めて経験として評価できるかが重要になると思います。多くの事業会社では、成功・失敗の経験が不足している印象があります。個別の案件が失敗したからといって、連携に係る取組みのすべてを失敗と判断してしまうには時期尚早だと思いますし、失敗事例を含めてどのような連携が好ましいか試行錯誤していくことが全体的な成功に繋がるのではないでしょうか。 また、当社としては、より一層SU支援のエコシステムを拡充し、CVCをサステナブルな事業として拡大させていきたいです。 関連サイト:https://www.sbinvestment.co.jp/ 作成者:PwCコンサルティング合同会社 インタビュー実施日:2024.1.9
アイエヌジー証券会社投資銀行本部を経て、2002年にSBIグループのバイオ・ヘルスケア専門VC、バイオビジョンキャピタルの立ち上げに参画。2005年にSBIインベストメント(株)に転籍後、投資部門にて国内外のベンチャー投資育成に携わる。
イントロダクション2016年からCVC事業部にて事業会社と共同で設立運営するコーポレート・ベンチャーキャピタルファンドを運用。2020年より現職。
量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。
そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。
本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、事業会社の視点からディープテック・スタートアップとの連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。
今回は、SBIインベストメント株式会社で実施しているディープテック・スタートアップ(以下、DTSU)との連携について、加藤様に話を聞いた。(以下、本文敬称略)
目的に応じた複数の投資スキームにより積極的な投資を推進
─―SBIインベストメントでは、CVC事業を立ち上げ、投資事業を実施していると伺いました。まずはCVC事業部の事業内容について、教えてください。
加藤: SBIインベストメントとしては、ジェネラルファンドとCVCファンドの2つのスキームがあります。ジェネラルファンドでは、多くの金融機関や事業会社から資金を集めてファンドを組成しています。一方、CVC事業部が運用するCVCファンドでは、事業会社と当社が共同でファンドを組成しています。
─―ジェネラルファンドとCVCファンドでは、どのような目的の違いがあるのでしょうか。また、各取組みのDTSUとの関わりを教えてください。
加藤: ジェネラルファンドは、キャピタルゲインの獲得が主目的になっています。投資対象として、DTSUが含まれているかたちです。一方、CVCファンドは財務規律を堅持しつつ、事業会社の戦略リターンの獲得を重視しています。当社が共同で運用するCVCファンドの投資家はメーカーが多く、オープンイノベーションの推進を目的にしていることが多いです。その文脈でDTSUとの関わりがありますね。
─―CVC事業部にはどのような経歴の方が多いのでしょうか。
加藤: 最近は人材の多様性がかなり進んできています。金融以外のバックグラウンドの人材も積極的に採用していますね。経営企画部門、事業開発部門、技術開発部門など様々なバックグラウンドの方々を採用し、前職での知見を事業会社やSUとの連携に生かしてもらっています。
CVCファンド
参考:https://www.sbinvestment.co.jp/features/open-innovation/
事業会社のナレッジを活かしDTSUの技術を評価
─―DTSUとの連携という観点では、CVCファンドの取組みが特徴的ですね。ソーシング活動においては、どのような取組みを実施しているのでしょうか。また、SUからのアイデアや製品・サービスの提案を募集することはございますか。
加藤: DTSUに関連するイベントに参加したり、専門誌や新聞等の公開情報を確認したりしています。それ以外にも、投資先企業や事業会社、投資家、大学等のネットワークから紹介いただくケースも多くありますね。また、HPでは事業会社やSUからの問い合わせも受け付けています。
─―DTSUとの連携を検討するにあたり、どのような評価を実施しているのでしょうか。
加藤: ビジネス・法務・財務デューデリジェンス(以下、DD)はもちろんのこと、DTSUとしては技術DDを重視しています。事業会社の研究所や開発部門のナレッジを生かし、SUの技術を確認しています。
─―事業会社のナレッジを生かせるのは、CVCファンドならではですね。技術の評価において、特に着目している観点はございますか。
加藤: 技術の新規性、競争優位性、またどういったところに課題を抱えているかは確認していますね。加えて、事業会社の技術との親和性も重要なポイントになります。また、ジェネラルファンドでも同様ですが、今後成長が見込まれるSUなのかという観点は重要ですね。
─―SUの技術を確認するなかで、SUが抱える課題に対して事業会社が支援することで技術の実現性を高められることもあるのではないかと思います。SUの技術開発に対して、何らかの支援を行うことはございますか。
加藤: 研究者やエンジニア間でディスカッションを実施し、共同開発や開発支援を行うケースはありますね。事業会社側の窓口としては、経営企画部門や新規事業部門が多いですが、研究所の企画部門が担当しているケースもあります。案件ごとに関係部署を巻き込んでいくことが、SUとの連携・技術支援において重要になると思います。
適切なリスク把握が連携を推進する
─―これまで様々なオープンイノベーション案件を推進してきたと思いますが、ノルマやKPIは管理されていますか。また、DTSUとの連携にあたって重視されていることはございますか。
加藤: 案件数や金額に対するノルマ・KPIは設定していない場合が多いですね。事業会社とシナジーがあるのか、SUとして今後の成長が見込まれる企業なのかという観点が大切だと思います。DTSUとの連携では、事業戦略を重視しており、入念に検討を重ねながらもリスクを取って投資を実施しています。また、実行体制を構築するためにも、各事業会社の事業戦略を理解したうえで、どのような連携が可能なのか検討するようにしています。
─―実際にDTSUとの連携を推進する中で、モニタリングのポイントやマイルストンはどのように設定しているのでしょうか。
加藤: DDを実施する際に逐次、今後の課題をモニタリングしています。また、マイルストンは、事業計画・開発計画などをもとに、技術開発や事業の節目、投資の観点から価値が変化するタイミングを設定しています。当初の仮説通りに開発が進捗しているのか、進捗していないならどのような課題があるのか、その課題は解決できるのか等を判断できる指標として、マイルストンを設定しています。
成否に関わらず経験を適切に評価することが今後の連携促進につながる
─―最後に、事業の中で様々な企業を見られてきたと思いますが、SUとの連携が上手くできている事業会社と上手くいっていない事業会社では、どのような違いがあると思われますか。また、今後取組み予定のことや、目標等がございましたら、教えてください。
加藤: 成功事例だけでなく、失敗事例を含めて経験として評価できるかが重要になると思います。多くの事業会社では、成功・失敗の経験が不足している印象があります。個別の案件が失敗したからといって、連携に係る取組みのすべてを失敗と判断してしまうには時期尚早だと思いますし、失敗事例を含めてどのような連携が好ましいか試行錯誤していくことが全体的な成功に繋がるのではないでしょうか。 また、当社としては、より一層SU支援のエコシステムを拡充し、CVCをサステナブルな事業として拡大させていきたいです。
作成者:PwCコンサルティング合同会社
インタビュー実施日:2024.1.9