プロフィール X様 ITソリューション会社を経て、2021年より新規事業部門に従事。スタートアップや地場のパートナー企業とともにオープンイノベーションによる新規事業や新サービス開発に取り組む。様々なステークホルダーとの事業シナジーを生むべく、事業連携を推進。 イントロダクション 量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。 そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。 本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、事業会社の視点からディープテック・スタートアップとの連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。 今回は、A社で実施しているディープテック・スタートアップ(以下、DTSU)との連携について、X様に話を聞いた。(以下、本文敬称略) 既存事業を基盤に新規事業を創出する ─―御社は、どのような背景から、新規事業に取り組むようになったのでしょうか。また、新規事業の中でも、既存事業から派生した取組みが多いのでしょうか。 X:近年は、社会的潮流などの影響で既存事業の需要が減少しています。そうしたなか、これまでに培った技術やお客様との関係性をもとに、新たな事業に取り掛かれないか、という観点から新規事業創出に向けた取組みがスタートしました。新規事業のなかには、既存事業から派生した事業だけでなく、市場トレンドを踏まえて、飛び地領域にもチャレンジしています。 ─―御社の事業部内には、DTSUとの連携を推進する部署はあるのでしょうか。また、どのように連携を進めているのでしょうか。 X:CVC事業では投資面の連携を検討していますが、投資方針は事業シナジーを重視しているため、CVCだけでなく、各事業部や研究所を含めて連携方法について検討しています。直接投資は幅広い領域に対して実施していますが、投資を伴わない場合は、各事業部が判断する形となっています。 ─―たしかに、CVCの観点だけでなく、事業シナジーを検討することが、SU連携には重要ですね。一方で、各事業部が裁量を持つとなると、既存領域と新規領域、事業部ごとの方針等でバッティングが生じる可能性が考えられますが、いかがでしょうか。 X:現状、既存領域と新規領域でカニバリゼーションが発生することは少ないですね。ただ、複数の事業部で投資先が重複しているなど、事業部間でのバッティングが生じるケースはあります。各事業部が裁量をもつメリットを享受しながらも、いかにバッティングを減らす仕組みを構築していくかが今後の課題になりそうです。 独自のオープンイノベーションプログラムを通じたネットワーク構築 ─―X様が所属している事業部では、独自のオープンイノベーションプログラムを推進していると伺いました。具体的にどのような取組みを推進しているのでしょうか。 X:当社のオープンイノベーションプログラムは、当社と地域のパートナー企業、そしてSUで共創する実証型のプログラムです。新規事業を積極的に推進する企業をパートナーとして迎え、エントリーいただいたSUと当社の3社で協業に向けた実証を推進しています。 ─―オープンイノベーションプログラムでは、様々な業種・業態の企業とお付き合いされているかと思います。そのなかでも、DTSUに着目するようになったきっかけは何でしょうか。 X:サステナビリティや脱炭素等の飛び地領域に着手していくなかで、結果的にDTSUと連携するようになったという形です。技術優位な取組みを進めていくうえでは、DTSUとの連携を増やしていきたいと考えており、今後は共同PoCも推進していく予定です。 ─―国内SUだけでなく、海外SUには着目されていますか。オープンイノベーションプログラムでは、海外SUとの連携も実施しているのでしょうか。 X:オープンイノベーションプログラムにおいて、2023年度に応募いただいたSUのうち、4~5割ほどは海外のSUでした。取組み当初は、対面でのイベント開催が当たり前だったこともあり、ほとんどが地元の企業でしたが、コロナ禍以降は、オンラインでのイベント開催が普及し、参加可能な企業の対象が広がったと思います。開催方式が変更されたことで、結果的に海外SUの参加も増えたという形ですね。 多様なネットワークの構築にはパートナー企業や外部組織との連携が効果的 ─―御社は、DTSUとの連携を推進するうえで、外部組織を活用されていますか。また、活用されている場合は、どのようなメリットがございますか。 X:国内と海外SUへの情報発信を目的に、外部組織やオープンイノベーションプログラムを共創するパートナー企業のネットワークを活用しています。特に外部組織との連携では、外部組織が持つグローバルなネットワークを活用することで、当社の取組みを効率的に海外に発信することができます。また、パートナー企業との連携では、パートナー企業が持つ他企業との繋がりを活用することで、より確実に対象のSUに情報を届けることができます。自社のみで連携を進めるのではなく、外部組織等のネットワークを有効に活用することで、より効果的にDTSUとの連携を推進できると思います。 DTSU連携の加速に向けた社内体制強化とマインド醸成 ─―続いて新規事業を推進する御社の体制について教えてください。新規事業開発部門は、どのようなバックグラウンドの方が多いのでしょうか。 X:全体として中途採用が多いです。バックグラウンドとしては、企画系、IT系など様々ですが、傾向としては営業系のバックグラウンドを持った方々が多いですね。 ─―中途採用では即戦力を獲得できそうですね。一方で、社内の人材が、新規事業部門やCVCに立候補することは可能なのでしょうか。また、新規事業に秀でた人材を育成する仕組み等は御社のなかにあるのでしょうか。 X:意欲・能力のある従業員の意思を配置に反映し、適材適所の人材配置の実現を図る制度があり、社員の希望をもとにCVCや新規事業部門に移動することが可能になっています。また、育成という観点では、新規事業向けの研修が整備されています。意思を持って新規事業に取組みたい社員に対しては、門戸が開かれていますね。 ─―これまでのインタビューで、御社は既存事業を軸に、様々な新規事業を展開していることが理解できました。社内では、新規事業に取組みやすい雰囲気が醸成されているのでしょうか。 X:たしかに、当社のオープンイノベーションプログラムのパートナー企業等と比較しても、当社は新規事業に取組むハードルは低いかと思います。社内では、社長が直々にメッセージを打ち出しており、新規事業推進に対する機運が高まっています。実際に投資予算としても、かなりの予算が配分されており、「予算がないから動けない」というようなことは少ないですね。 「トレンドを踏まえた連携」、「実証化のスピード」を意識したイノベーション創出 ─―インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。最後に、今後取組み予定や目標について教えてください。 X:トレンドを踏まえた連携を推進すること、実証化のスピード感を高めていくこと、この2点は特に意識していきたいですね。また、SUと連携する際、通常の大企業同士の品質保証基準を設けてしまうと、なかなか検討が進まないということもあります。SUに即した品質保証基準を寛容に設定していくことで、連携におけるハードルが下がり、より連携実績を増やしていけるのではないでしょうか。 作成者:PwCコンサルティング合同会社 インタビュー実施日:2024.1.11
X様
イントロダクションITソリューション会社を経て、2021年より新規事業部門に従事。スタートアップや地場のパートナー企業とともにオープンイノベーションによる新規事業や新サービス開発に取り組む。様々なステークホルダーとの事業シナジーを生むべく、事業連携を推進。
量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。
そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。
本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、事業会社の視点からディープテック・スタートアップとの連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。
今回は、A社で実施しているディープテック・スタートアップ(以下、DTSU)との連携について、X様に話を聞いた。(以下、本文敬称略)
既存事業を基盤に新規事業を創出する
─―御社は、どのような背景から、新規事業に取り組むようになったのでしょうか。また、新規事業の中でも、既存事業から派生した取組みが多いのでしょうか。
X:近年は、社会的潮流などの影響で既存事業の需要が減少しています。そうしたなか、これまでに培った技術やお客様との関係性をもとに、新たな事業に取り掛かれないか、という観点から新規事業創出に向けた取組みがスタートしました。新規事業のなかには、既存事業から派生した事業だけでなく、市場トレンドを踏まえて、飛び地領域にもチャレンジしています。
─―御社の事業部内には、DTSUとの連携を推進する部署はあるのでしょうか。また、どのように連携を進めているのでしょうか。
X:CVC事業では投資面の連携を検討していますが、投資方針は事業シナジーを重視しているため、CVCだけでなく、各事業部や研究所を含めて連携方法について検討しています。直接投資は幅広い領域に対して実施していますが、投資を伴わない場合は、各事業部が判断する形となっています。
─―たしかに、CVCの観点だけでなく、事業シナジーを検討することが、SU連携には重要ですね。一方で、各事業部が裁量を持つとなると、既存領域と新規領域、事業部ごとの方針等でバッティングが生じる可能性が考えられますが、いかがでしょうか。
X:現状、既存領域と新規領域でカニバリゼーションが発生することは少ないですね。ただ、複数の事業部で投資先が重複しているなど、事業部間でのバッティングが生じるケースはあります。各事業部が裁量をもつメリットを享受しながらも、いかにバッティングを減らす仕組みを構築していくかが今後の課題になりそうです。
独自のオープンイノベーションプログラムを通じたネットワーク構築
─―X様が所属している事業部では、独自のオープンイノベーションプログラムを推進していると伺いました。具体的にどのような取組みを推進しているのでしょうか。
X:当社のオープンイノベーションプログラムは、当社と地域のパートナー企業、そしてSUで共創する実証型のプログラムです。新規事業を積極的に推進する企業をパートナーとして迎え、エントリーいただいたSUと当社の3社で協業に向けた実証を推進しています。
─―オープンイノベーションプログラムでは、様々な業種・業態の企業とお付き合いされているかと思います。そのなかでも、DTSUに着目するようになったきっかけは何でしょうか。
X:サステナビリティや脱炭素等の飛び地領域に着手していくなかで、結果的にDTSUと連携するようになったという形です。技術優位な取組みを進めていくうえでは、DTSUとの連携を増やしていきたいと考えており、今後は共同PoCも推進していく予定です。
─―国内SUだけでなく、海外SUには着目されていますか。オープンイノベーションプログラムでは、海外SUとの連携も実施しているのでしょうか。
X:オープンイノベーションプログラムにおいて、2023年度に応募いただいたSUのうち、4~5割ほどは海外のSUでした。取組み当初は、対面でのイベント開催が当たり前だったこともあり、ほとんどが地元の企業でしたが、コロナ禍以降は、オンラインでのイベント開催が普及し、参加可能な企業の対象が広がったと思います。開催方式が変更されたことで、結果的に海外SUの参加も増えたという形ですね。
多様なネットワークの構築にはパートナー企業や外部組織との連携が効果的
─―御社は、DTSUとの連携を推進するうえで、外部組織を活用されていますか。また、活用されている場合は、どのようなメリットがございますか。
X:国内と海外SUへの情報発信を目的に、外部組織やオープンイノベーションプログラムを共創するパートナー企業のネットワークを活用しています。特に外部組織との連携では、外部組織が持つグローバルなネットワークを活用することで、当社の取組みを効率的に海外に発信することができます。また、パートナー企業との連携では、パートナー企業が持つ他企業との繋がりを活用することで、より確実に対象のSUに情報を届けることができます。自社のみで連携を進めるのではなく、外部組織等のネットワークを有効に活用することで、より効果的にDTSUとの連携を推進できると思います。
DTSU連携の加速に向けた社内体制強化とマインド醸成
─―続いて新規事業を推進する御社の体制について教えてください。新規事業開発部門は、どのようなバックグラウンドの方が多いのでしょうか。
X:全体として中途採用が多いです。バックグラウンドとしては、企画系、IT系など様々ですが、傾向としては営業系のバックグラウンドを持った方々が多いですね。
─―中途採用では即戦力を獲得できそうですね。一方で、社内の人材が、新規事業部門やCVCに立候補することは可能なのでしょうか。また、新規事業に秀でた人材を育成する仕組み等は御社のなかにあるのでしょうか。
X:意欲・能力のある従業員の意思を配置に反映し、適材適所の人材配置の実現を図る制度があり、社員の希望をもとにCVCや新規事業部門に移動することが可能になっています。また、育成という観点では、新規事業向けの研修が整備されています。意思を持って新規事業に取組みたい社員に対しては、門戸が開かれていますね。
─―これまでのインタビューで、御社は既存事業を軸に、様々な新規事業を展開していることが理解できました。社内では、新規事業に取組みやすい雰囲気が醸成されているのでしょうか。
X:たしかに、当社のオープンイノベーションプログラムのパートナー企業等と比較しても、当社は新規事業に取組むハードルは低いかと思います。社内では、社長が直々にメッセージを打ち出しており、新規事業推進に対する機運が高まっています。実際に投資予算としても、かなりの予算が配分されており、「予算がないから動けない」というようなことは少ないですね。
「トレンドを踏まえた連携」、「実証化のスピード」を意識したイノベーション創出
─―インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。最後に、今後取組み予定や目標について教えてください。
X:トレンドを踏まえた連携を推進すること、実証化のスピード感を高めていくこと、この2点は特に意識していきたいですね。また、SUと連携する際、通常の大企業同士の品質保証基準を設けてしまうと、なかなか検討が進まないということもあります。SUに即した品質保証基準を寛容に設定していくことで、連携におけるハードルが下がり、より連携実績を増やしていけるのではないでしょうか。
インタビュー実施日:2024.1.11