プロフィール X様 大手ICT企業やスタートアップにて新規事業立ち上げの支援に携わった後に現職のD社にジョイン。取締役であり研究部門の責任者も兼ねる。 イントロダクション 量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。 そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。 本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、ディープテック・スタートアップの視点から事業会社との連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。 今回は、D社で実施している事業会社との連携について、X様に話を聞いた。(以下、本文敬称略) 社内や株主のコネクションを活用し、事業会社との関係性を構築 ─―御社は、事業会社からの出資や共同研究に関するプレスリリース等を発信されていると思いますが、どのようなきっかけで事業会社と繋がることが多いのでしょうか。 X:事業会社からのWeb等による問い合わせと、当社のコネクションによるアプローチの2パターンがあります。ピンポイントに連携したい企業が決まっている場合は、当社メンバーや株主のコネクションをたどってアプローチするケースが多いですね。事業会社のHPにも問い合わせページがあることが多いですが、問い合わせからのアプローチだと連携可否を意思決定する担当者まで情報が届くのに時間がかかる印象があります。そのため、よりスピード感をもって連携を進めていく手段として、直接的な繋がりを活用しています。また、当社では事業会社を招待して研究事例の紹介などを実施していますが、即座に連携に繋がらなかったとしても、こうした場で事前にコミュニティを形成しておくことで、後の連携に繋がるコネクションを築くことができると考えています。 技術の親和性と競合リスクを考慮したうえで、SU側に明確なメリットがあることが事業会社との連携を促進するカギ ─―問い合わせやコネクションをその後の連携に繋げていくために工夫していることや、事業会社に期待することはございますか。 X:まずは事業会社とSUが互いに連携の目的を明確にし、共同研究における将来的なゴールを互いに摺り合わせることが重要だと思います。そのうえで、共同研究を実施する場所の提供等、当社にとっての明確なメリットがあると、連携の意思決定に対して非常に後押しになりますね。 ─―どのような要素が、事業会社と連携する決め手になるのでしょうか。 X:技術の親和性の有無、競合リスクの有無、担当者の人柄は大きなポイントになると思います。当社がBtoC事業であるため、BtoBのビジネスを展開する事業会社であれば、競合するリスクはかなり低減されます。また、担当者の方が丁寧なコミュニケーションを取ってくださり、熱意を持って連携に取り組んでくださる方が、安心して連携を開始することができますね。 ─―事業会社との連携を検討する際、共同研究のテーマはどのように決めているのでしょうか。 X:互いにテーマを持ち寄る形が多いですね。事業会社が持っている技術を紹介いただきつつ、当社の研究成果を紹介し、互いの興味・関心が合致する分野で共同研究を実施します。 情報流出を留意したうえでの人材交流は関係性の構築、人的リソースを確保するうえで効果的 ─―続いて、事業会社との人材交流やマイルストンについて伺っていきたいと思います。御社では、事業会社からの出向の受け入れなどは実施されていますか。 X:共同研究を実施していた事業会社ではありませんが、事業会社から若手社員を受け入れた実績はあります。人的リソースの確保や関係性の構築という面から、当社にとっても有意義な取組みだったと思います。 ─―事業会社との人材交流において、御社の技術情報の流出など、気を付けていることはございますか。 X:まさしく、研究によって蓄積しているデータは当社の資産であるので、フリーでアクセスできないように情報管理を徹底する必要があります。その点、共同研究を実施しておらず、業界も近しくない事業会社であれば、当社のデータが流出してしまう危険性が少なく、人材交流を進めやすいと思います。 ─―続いて、事業会社との連携におけるマイルストンやゴールの設定について伺いたいと思います。共同研究のマイルストンを決めていくうえで、重要なポイントはございますか。 X:マイルストンは連携先の事業会社の意向を尊重するケースが多いです。一方、経営陣の入れ替えによる社内方針の変化等の事業会社側の都合によって共同研究のゴール自体が変わってしまうこともあります。ゴール自体が変化することで、新たにカニバリゼーションが発生する可能性もあるので、注意が必要です。 ─―マイルストンやゴールが途中で変わることがないように、契約段階で事前に対応することは可能なのでしょうか。 X:現状、手探りの中で共同研究を実施しているので、契約段階で全てのことを想定し、事前に取り決めておくことは難しいですね。共同研究においては、研究を進めながらマイルストンを設定していくことが多いです。 社内のリソースと事業とのシナジーを踏まえ、事業会社との連携を推進していきたい ─―本日はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございました。最後に、今後の取組み予定や目標について教えてください。 X:社内のリソースや当社の事業とどれほどシナジーがあるのかという観点を考慮しつつ、当社と相性のよい企業があれば、積極的に連携していきたいですね。 作成者:PwCコンサルティング合同会社 インタビュー実施日:2024.2.9
X様
イントロダクション大手ICT企業やスタートアップにて新規事業立ち上げの支援に携わった後に現職のD社にジョイン。取締役であり研究部門の責任者も兼ねる。
量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。
そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。
本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、ディープテック・スタートアップの視点から事業会社との連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。
今回は、D社で実施している事業会社との連携について、X様に話を聞いた。(以下、本文敬称略)
社内や株主のコネクションを活用し、事業会社との関係性を構築
─―御社は、事業会社からの出資や共同研究に関するプレスリリース等を発信されていると思いますが、どのようなきっかけで事業会社と繋がることが多いのでしょうか。
X:事業会社からのWeb等による問い合わせと、当社のコネクションによるアプローチの2パターンがあります。ピンポイントに連携したい企業が決まっている場合は、当社メンバーや株主のコネクションをたどってアプローチするケースが多いですね。事業会社のHPにも問い合わせページがあることが多いですが、問い合わせからのアプローチだと連携可否を意思決定する担当者まで情報が届くのに時間がかかる印象があります。そのため、よりスピード感をもって連携を進めていく手段として、直接的な繋がりを活用しています。また、当社では事業会社を招待して研究事例の紹介などを実施していますが、即座に連携に繋がらなかったとしても、こうした場で事前にコミュニティを形成しておくことで、後の連携に繋がるコネクションを築くことができると考えています。
技術の親和性と競合リスクを考慮したうえで、SU側に明確なメリットがあることが事業会社との連携を促進するカギ
─―問い合わせやコネクションをその後の連携に繋げていくために工夫していることや、事業会社に期待することはございますか。
X:まずは事業会社とSUが互いに連携の目的を明確にし、共同研究における将来的なゴールを互いに摺り合わせることが重要だと思います。そのうえで、共同研究を実施する場所の提供等、当社にとっての明確なメリットがあると、連携の意思決定に対して非常に後押しになりますね。
─―どのような要素が、事業会社と連携する決め手になるのでしょうか。
X:技術の親和性の有無、競合リスクの有無、担当者の人柄は大きなポイントになると思います。当社がBtoC事業であるため、BtoBのビジネスを展開する事業会社であれば、競合するリスクはかなり低減されます。また、担当者の方が丁寧なコミュニケーションを取ってくださり、熱意を持って連携に取り組んでくださる方が、安心して連携を開始することができますね。
─―事業会社との連携を検討する際、共同研究のテーマはどのように決めているのでしょうか。
X:互いにテーマを持ち寄る形が多いですね。事業会社が持っている技術を紹介いただきつつ、当社の研究成果を紹介し、互いの興味・関心が合致する分野で共同研究を実施します。
情報流出を留意したうえでの人材交流は関係性の構築、人的リソースを確保するうえで効果的
─―続いて、事業会社との人材交流やマイルストンについて伺っていきたいと思います。御社では、事業会社からの出向の受け入れなどは実施されていますか。
X:共同研究を実施していた事業会社ではありませんが、事業会社から若手社員を受け入れた実績はあります。人的リソースの確保や関係性の構築という面から、当社にとっても有意義な取組みだったと思います。
─―事業会社との人材交流において、御社の技術情報の流出など、気を付けていることはございますか。
X:まさしく、研究によって蓄積しているデータは当社の資産であるので、フリーでアクセスできないように情報管理を徹底する必要があります。その点、共同研究を実施しておらず、業界も近しくない事業会社であれば、当社のデータが流出してしまう危険性が少なく、人材交流を進めやすいと思います。
─―続いて、事業会社との連携におけるマイルストンやゴールの設定について伺いたいと思います。共同研究のマイルストンを決めていくうえで、重要なポイントはございますか。
X:マイルストンは連携先の事業会社の意向を尊重するケースが多いです。一方、経営陣の入れ替えによる社内方針の変化等の事業会社側の都合によって共同研究のゴール自体が変わってしまうこともあります。ゴール自体が変化することで、新たにカニバリゼーションが発生する可能性もあるので、注意が必要です。
─―マイルストンやゴールが途中で変わることがないように、契約段階で事前に対応することは可能なのでしょうか。
X:現状、手探りの中で共同研究を実施しているので、契約段階で全てのことを想定し、事前に取り決めておくことは難しいですね。共同研究においては、研究を進めながらマイルストンを設定していくことが多いです。
社内のリソースと事業とのシナジーを踏まえ、事業会社との連携を推進していきたい
─―本日はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございました。最後に、今後の取組み予定や目標について教えてください。
X:社内のリソースや当社の事業とどれほどシナジーがあるのかという観点を考慮しつつ、当社と相性のよい企業があれば、積極的に連携していきたいですね。
インタビュー実施日:2024.2.9