加藤 尚哉様 プロフィール 京都大学工学部工業化学科卒業。内外資投資銀行において事業再生等多数の投資案件に従事。その後パートナーとして立ち上げから参画した独立系プライベートエクイティファンドではバイアウト投資実務を経験。2018年1月 エネコートテクノロジーズを共同設立、代表取締役に就任。 イントロダクション 量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。 そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。 本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、ディープテック・スタートアップの視点から事業会社との連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。 今回は、株式会社エネコートテクノロジーズで実施している事業会社との連携について、加藤様に話を聞いた。(以下、本文敬称略) 会社概要 コーポレートミッション・京都大学の研究者による知を事業化すること ・ペロブスカイト太陽電池(PSCs)*による「どこでも電源®」化を実現し様々なデバイスの利便性の向上やIoT化の促進に貢献すること ・PSCsの主力電源化を目指し、カーボンニュートラル達成、超長期的なエネルギー問題解決に貢献すること 事業概要・PSCs及びその関連材料の開発、製造、販売など *ペロブスカイト太陽電池(PSCs)・・・ペロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造の材料を用いた太陽電池。薄くて軽く、柔軟性があり曲げることができるため、これまでは難しかったビルの側壁等にも太陽光パネルを取り付けて発電することができる。 参考:株式会社エネコートテクノロジーズ 『会社概要』 ペロブスカイト太陽電池(PSCs) 事業会社との連携推進におけるポイントは判断基準の明確化と事業会社の計画性 ─―御社は事業会社からの出資や共同研究に関するプレスリリース等を発信されていると思いますが、それらの事業会社とはどのような経緯で繋がることが多いのでしょうか。 加藤:基本的に、事業会社からアプローチいただいています。当社のHPからの問い合わせ、支援事業者からの紹介、ピッチイベント等をきっかけに事業会社と繋がることが多いですね。 ─―事業会社から声をかけてもらうために、工夫していることはございますか。また、どのような理由で声をかけてもらうことが多いのでしょうか。 加藤:ペロブスカイト太陽電池というプロダクトそのものに魅力を感じていただき、声をかけてもらうケースが多いですね。また、会社設立当初は、事業会社との関係性を構築するためにピッチイベントにも積極的に参加していました。現在では、事業会社から声をかけてもらうことが増えており、ピッチイベントも取捨選択しながら参加しています。 ─―事業会社との連携を検討する際に、特に重視している観点はございますか。 加藤:資金調達の観点から、出資いただける場合は連携に繋がりやすいと思いますが、事業シナジーが大きいと判断した場合は、出資の有無に関係なく前向きに連携を検討しています。また、事業会社のブランド力も重要なファクターの一つです。分野ごとに用途開拓を実施するにあたり、当該分野のリーディングカンパニーとの協業は一番インパクトが大きいからです。加えて、連携後の解像度が高く計画性のある企業と連携するため、事業会社側がどのような連携を想定しているのか事前に確認するようにしています。 モデル契約書をベースに、専門家とともに技術を保護する ─―事業会社と契約を結ぶ中で、工夫していることや意識していることはございますか。 加藤:当社では、「資金を出した企業側に特許や権利配分を決定する権利がある」という事業会社優位の契約とはならないように意識しています。具体的には、SUと事業会社との契約に長けたアドバイザーに在籍してもらい、経済産業省が公表しているモデル契約書*も参考にして事業会社との契約を行っています。 ─―「資金を出した企業側に特許や権利配分を決定する権利がある」ことについて、もう少し具体的に教えていただけないでしょうか。 加藤:大企業同士の連携であれば、特許は貢献度に応じて判断し、費用も相互負担であることが多いですが、SUと事業会社では資金力に大きな差があり、大企業側の意向に対応できないことも多いです。そのため、モデル契約書を参考としながら、「大企業側に資金を大部分出していただいた場合でも、権利はSUにも一定程度帰属すること」を了承いただけるような工夫が必要になるものと考えられます。 ─―この方針は、会社設立当初から継続してきたものなのでしょうか。それとも事業会社からのアプローチが増える中で新たに設定したものなのでしょうか。 加藤:弊社には設立当初から、役員の中にSU支援を生業にしている弁護士がおり、契約面はその方のアドバイスを参考にしています。また、技術情報を事業会社に開示する場合は、契約面、運用面ともに細心の注意を払い、極力将来の果実まで踏み込んだ交渉をするようにしています。 *参考:経済産業省『モデル契約書』 https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html 意思決定の早さは事業会社との連携の重要な判断軸 ─―続いて、マイルストンやゴールの設定、意思決定のスピードについて教えてください。まず、マイルストンは、事業会社とどのように取り決めているのでしょうか。 加藤:開発のマイルストンは立てやすいですが、製造についてはプロダクトが実用化前であることもあり、マイルストンを立てにくいのが現状です。その場合は、事業会社側が具体的なプランを持っているか、当社がそのプランに対応できるかという観点で判断しています。共同研究に着手するためには、事業会社のゴール、プランが明確であることが重要です。 ─―次に、意思決定のスピードについてお伺いします。事業会社との連携においては、稟議や経営陣への確認等、事業会社側の意思決定に時間がかかることがありますが、御社はどのように対応しているのでしょうか。 加藤:当社は、元より意思決定が早い企業と連携するようにしており、連携後に意思決定のスピードで問題が生じないようにしています。 ─―意思決定が早い事業会社と遅い事業会社は、どのように見分けているのでしょうか。 加藤:「窓口担当者に熱意があるか」、「意思決定権者(例:窓口担当者の直属の上司等)がサポーティブか」、「会社として連携推進にあたるサポーティブな体制が整っているか」という3つの観点が判断軸になると考えています。そのうえで、初回の面談の際に「意思決定権のある方がいらっしゃること」が重要ですね。担当者に権限がなく、「持ち帰って検討します」というパターンは意思決定に時間がかかるケースが多いと感じています。また、担当者の方のみで判断できない場合でも、即座に意思決定権のある方を連れてきてくれる企業は意思決定が早い印象がありますね。加えて、新規事業を推進する担当部署が社内に設置されており、その部署が社長直下の部署である場合は、意思決定が早い傾向にあると思います。 特許や権利を守り、ライセンスビジネスに繋げていきたい ─―本日はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございました。最後に、今後の方針や目標について教えてください。 加藤:現在の延長線上が基本方針とはなりますが、今後は少しずつ事業が開発から生産に移行していくと考えています。また、ライセンスビジネスも検討しており、ライセンスを受ける先を支援することも考えられますね。特許や権利を守ることで、ライセンスビジネスに繋げていきたいと考えています。 参考サイト:https://enecoat.com/ 作成者:PwCコンサルティング合同会社 インタビュー実施日:2024.2.16
加藤 尚哉様
京都大学工学部工業化学科卒業。内外資投資銀行において事業再生等多数の投資案件に従事。その後パートナーとして立ち上げから参画した独立系プライベートエクイティファンドではバイアウト投資実務を経験。2018年1月 エネコートテクノロジーズを共同設立、代表取締役に就任。
イントロダクション
量子、AI、バイオテクノロジー、半導体・電子機器、環境・エネルギー、素材、医療機器、航空宇宙等、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決を通して社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を「ディープテック」という。
そうした技術の開発に着手するスタートアップを、「ディープテック・スタートアップ」と呼ぶが、近年では、技術開発や新たな価値創造、社会実装を促進していく意味合いから、事業会社とディープテック・スタートアップが連携する事例が増えてきた。
本連載では、独自にインタビューを進めた内容を元に、ディープテック・スタートアップの視点から事業会社との連携における課題や成功ポイントについて紹介していく。
今回は、株式会社エネコートテクノロジーズで実施している事業会社との連携について、加藤様に話を聞いた。(以下、本文敬称略)
会社概要
・ペロブスカイト太陽電池(PSCs)*による「どこでも電源®」化を実現し様々なデバイスの利便性の向上やIoT化の促進に貢献すること
・PSCsの主力電源化を目指し、カーボンニュートラル達成、超長期的なエネルギー問題解決に貢献すること
*ペロブスカイト太陽電池(PSCs)・・・ペロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造の材料を用いた太陽電池。薄くて軽く、柔軟性があり曲げることができるため、これまでは難しかったビルの側壁等にも太陽光パネルを取り付けて発電することができる。
参考:株式会社エネコートテクノロジーズ 『会社概要』
ペロブスカイト太陽電池(PSCs)
事業会社との連携推進におけるポイントは判断基準の明確化と事業会社の計画性
─―御社は事業会社からの出資や共同研究に関するプレスリリース等を発信されていると思いますが、それらの事業会社とはどのような経緯で繋がることが多いのでしょうか。
加藤:基本的に、事業会社からアプローチいただいています。当社のHPからの問い合わせ、支援事業者からの紹介、ピッチイベント等をきっかけに事業会社と繋がることが多いですね。
─―事業会社から声をかけてもらうために、工夫していることはございますか。また、どのような理由で声をかけてもらうことが多いのでしょうか。
加藤:ペロブスカイト太陽電池というプロダクトそのものに魅力を感じていただき、声をかけてもらうケースが多いですね。また、会社設立当初は、事業会社との関係性を構築するためにピッチイベントにも積極的に参加していました。現在では、事業会社から声をかけてもらうことが増えており、ピッチイベントも取捨選択しながら参加しています。
─―事業会社との連携を検討する際に、特に重視している観点はございますか。
加藤:資金調達の観点から、出資いただける場合は連携に繋がりやすいと思いますが、事業シナジーが大きいと判断した場合は、出資の有無に関係なく前向きに連携を検討しています。また、事業会社のブランド力も重要なファクターの一つです。分野ごとに用途開拓を実施するにあたり、当該分野のリーディングカンパニーとの協業は一番インパクトが大きいからです。加えて、連携後の解像度が高く計画性のある企業と連携するため、事業会社側がどのような連携を想定しているのか事前に確認するようにしています。
モデル契約書をベースに、専門家とともに技術を保護する
─―事業会社と契約を結ぶ中で、工夫していることや意識していることはございますか。
加藤:当社では、「資金を出した企業側に特許や権利配分を決定する権利がある」という事業会社優位の契約とはならないように意識しています。具体的には、SUと事業会社との契約に長けたアドバイザーに在籍してもらい、経済産業省が公表しているモデル契約書*も参考にして事業会社との契約を行っています。
─―「資金を出した企業側に特許や権利配分を決定する権利がある」ことについて、もう少し具体的に教えていただけないでしょうか。
加藤:大企業同士の連携であれば、特許は貢献度に応じて判断し、費用も相互負担であることが多いですが、SUと事業会社では資金力に大きな差があり、大企業側の意向に対応できないことも多いです。そのため、モデル契約書を参考としながら、「大企業側に資金を大部分出していただいた場合でも、権利はSUにも一定程度帰属すること」を了承いただけるような工夫が必要になるものと考えられます。
─―この方針は、会社設立当初から継続してきたものなのでしょうか。それとも事業会社からのアプローチが増える中で新たに設定したものなのでしょうか。
加藤:弊社には設立当初から、役員の中にSU支援を生業にしている弁護士がおり、契約面はその方のアドバイスを参考にしています。また、技術情報を事業会社に開示する場合は、契約面、運用面ともに細心の注意を払い、極力将来の果実まで踏み込んだ交渉をするようにしています。
*参考:経済産業省『モデル契約書』 https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html
意思決定の早さは事業会社との連携の重要な判断軸
─―続いて、マイルストンやゴールの設定、意思決定のスピードについて教えてください。まず、マイルストンは、事業会社とどのように取り決めているのでしょうか。
加藤:開発のマイルストンは立てやすいですが、製造についてはプロダクトが実用化前であることもあり、マイルストンを立てにくいのが現状です。その場合は、事業会社側が具体的なプランを持っているか、当社がそのプランに対応できるかという観点で判断しています。共同研究に着手するためには、事業会社のゴール、プランが明確であることが重要です。
─―次に、意思決定のスピードについてお伺いします。事業会社との連携においては、稟議や経営陣への確認等、事業会社側の意思決定に時間がかかることがありますが、御社はどのように対応しているのでしょうか。
加藤:当社は、元より意思決定が早い企業と連携するようにしており、連携後に意思決定のスピードで問題が生じないようにしています。
─―意思決定が早い事業会社と遅い事業会社は、どのように見分けているのでしょうか。
加藤:「窓口担当者に熱意があるか」、「意思決定権者(例:窓口担当者の直属の上司等)がサポーティブか」、「会社として連携推進にあたるサポーティブな体制が整っているか」という3つの観点が判断軸になると考えています。そのうえで、初回の面談の際に「意思決定権のある方がいらっしゃること」が重要ですね。担当者に権限がなく、「持ち帰って検討します」というパターンは意思決定に時間がかかるケースが多いと感じています。また、担当者の方のみで判断できない場合でも、即座に意思決定権のある方を連れてきてくれる企業は意思決定が早い印象がありますね。加えて、新規事業を推進する担当部署が社内に設置されており、その部署が社長直下の部署である場合は、意思決定が早い傾向にあると思います。
特許や権利を守り、ライセンスビジネスに繋げていきたい
─―本日はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございました。最後に、今後の方針や目標について教えてください。
加藤:現在の延長線上が基本方針とはなりますが、今後は少しずつ事業が開発から生産に移行していくと考えています。また、ライセンスビジネスも検討しており、ライセンスを受ける先を支援することも考えられますね。特許や権利を守ることで、ライセンスビジネスに繋げていきたいと考えています。
作成者:PwCコンサルティング合同会社
インタビュー実施日:2024.2.16