社会課題の解決につながる新規事業の創出に向け変革を加速する、京セラ株式会社の大崎 哲広氏(以下、大崎)に話を伺った。 大崎 哲広氏 変化を恐れない「モノ×コト」へのシフト ──御社はオープンイノベーションの活性化などを目的とし、関東圏の拠点を集約した研究所として、2019年にみなとみらいリサーチセンターを設立、2020年にはオープンイノベーションを専門とするオウンドメディアとして「オープンイノベーションアリーナ」を開設されていますが、こうしたオープンイノベーションに関する取組を立て続けに実施されたきっかけについて教えてください。 大崎:弊社の祖業は「モノ」を主軸に置いたセラミック部品製造業であり、顧客が抱えている目に見える課題をいかにして解決するかが重要でしたが、2016年頃よりデジタル化やグローバル化の進展により、人々の求めるものが多様化する中で、価値の対象は「モノ」から「コト」へ変化してきていました。目に見える課題を”研究開発”によりいかにして解決するかが重要でしたが、「コト」への需要は顧客自身にも課題が見えていないことが多く、従来より実施してきた内製型の「閉じた研究開発」では外部環境の変化に即応することが難しくなってきていました。 ──事業環境の変化に対して強い課題意識を抱えられていたのですね。 大崎:また、ボトムアップの研究開発の必要性を強く意識していたということもありました。トップダウンで進めると「言わなくなるとやらなくなる」といった意識になってしまうケースが多くなります。ボトムアップで行うオープンイノベーションの組織を立ち上げることで研究開発において「チャレンジする」の文化が醸成されてきています。 ──オープンイノベーション活用することでマインド面でもスピード感を高めることに名つながったのですね。オープンイノベーションにおいてポイントとしていることは何でしょうか。 大崎:「モノ×コト」を組み合わせた社会課題解決にポイントをおき、プロダクトイノベーションとプロセスイノベーションのどちらのイノベーションについても力を入れております。例えば、みなとみらいリサーチセンター内の「共創スペース」では、研究開発のショールームを展開し、直接モノを触りながら共創を行っています。また、みなとみらいリサーチセンターに併設されている「オープンイノベーションスクエア」や「オープンイノベーションアリーナ」を活用して社内のコミュニケーションを活性化し、社内と社外の連携を「目立つ⇒つながる⇒挑戦する⇒機会創出」の一連の流れで取り組んでいます。 「閉じた研究開発」を変えるための交流の場 ──続いてオープンイノベーションを活用した事業化への具体的な取組についてお伺いできればと存じます。御社では社内と社外の連携を「目立つ⇒つながる⇒挑戦する⇒機会創出」という流れで取り組んでいるとのことですが、まず、「目立つ」ための取組について教えてください。 大崎:社内外との架け橋や社内連携になるようなイベントを月に一回以上のペースで実施しています。社外イベントでは、異分野の有識者を集めてパネルディスカッションを行う「異種格闘技戦」や2018年から量子アニーリング研究開発コンソーシアムのメンバーとして実施している量子アニーリングをテーマとした「ミニシンポジウム」など、また、社内連携では「企業別交流会」や「KYOCERA Venture Day」、「R&D Virtual Open Labo. Day」といった参加者にある種の共感や興味をもっていただけるようなイベントを数多く実施しております。これらの取組の結果、現在ではイベントを実施するたびに数百人単位の参加者の集客へとつながっています。 また、オウンドメディアである「オープンイノベーションアリーナ」で様々な情報発信を行っています。同メディアではあえて自分たちのやりたいことに「絞らない」情報発信を行うことようにしており、これも「何か起こるかもしれない」相手とつながるために「すべてを否定しない」を基本としているからです。 ──数百人単位で社内外を巻き込んだイベントについて毎月実施されるのは相当なご負担かと存じます。 大崎:社内外連携について繰り返し取り組みを進めていく中で、社内全体の風土としてよくなってきていることを感じます。例えばあるテーマで社内講習会を実施しようとなったときに関連部署の社員自ら手を挙げて参加してくれるようになってきていて、運営側としてもやりやすくなってきています。元々、社内については上からの参加要請ではなく、自分たちの情報収集の場として主体的に参加しているというのが大きなポイントでしょう。 ──社内風土の改善の影響がイベント運営にもつながっているのですね。続いて、「つながる」ための取組について教えてください。 大崎:私たちは探索に過大なコストをかけるのではなく、「目立つ」ことでベンチャーから話が来るように促進しています。自分たちが開発した出口の「意外な組み合わせ」を探すこともオープンイノベーションでは重視しています。現状の課題として、京セラは事業の幅が広く、一つの事業部では扱えないものが多くなってきており、実証実験後の事業化に「挑戦する」際にすり合わせにおいて課題となっています。この課題を解決するために事業が大きくなるまでを関連する事業部が見届けるようなシステムの構築を行っています。 人とヒトが出会い、交流し、協力し合う環境つくり ──御社が考えるオープンイノベーションのスタイルとは何でしょうか。 大崎:「一緒にやっていく、何か別の出口を探すスタイル」を大事にしています。研究を一緒に進めるパートナーを探す際にも、京セラのプラダクトに対してパートナーの技術で一緒に出口を探したり、パートナーのシーズに対して京セラの技術が活かせる出口を一緒に探したりしていくスタイルとなっています。出口の基準をあえて決めていないことで、単なる企業課題の解決ではなく、社会課題解決につながる取組へとつなげています。 ──「時代や市場が求める価値を独自技術と視点で切り開きカタチ」にするという、御社ならではの考え方ですね。最後にボトムアップで行うオープンイノベーションへ向かえない企業に対するアドバイスがありましたら教えてください。 大崎:私たちも最初は役員クラスが大企業化に対して強く危機感をもっており、組織の立ち上げなど行動を起こすことがきっかけとなって、ボトムアップの風土醸成がはじまりました。まず、危機感をもち、それをメンバーに伝え続けることが重要だと思っています。 取材対象プロフィール 京セラ株式会社 オープンイノベーション推進部責任者大崎 哲広氏 1991年青山学院大学理工学部物理学科卒業後、京セラ株式会社に入社。滋賀の研究施設にて薄膜単結晶デバイスの研究開発に携わり、その後も結晶デバイス研究開発・研究開発推進・企画業務を歴任。2015年に現みなとみらいリサーチセンターの一部前身であるソフトウェアラボの立ち上げに従事。その後通信ソリューションの開発マネジメントを経て2021年4月より現職。 インタビュー実施日:2022年3月22日
社会課題の解決につながる新規事業の創出に向け変革を加速する、京セラ株式会社の大崎 哲広氏(以下、大崎)に話を伺った。
大崎 哲広氏
変化を恐れない「モノ×コト」へのシフト
──御社はオープンイノベーションの活性化などを目的とし、関東圏の拠点を集約した研究所として、2019年にみなとみらいリサーチセンターを設立、2020年にはオープンイノベーションを専門とするオウンドメディアとして「オープンイノベーションアリーナ」を開設されていますが、こうしたオープンイノベーションに関する取組を立て続けに実施されたきっかけについて教えてください。
大崎:弊社の祖業は「モノ」を主軸に置いたセラミック部品製造業であり、顧客が抱えている目に見える課題をいかにして解決するかが重要でしたが、2016年頃よりデジタル化やグローバル化の進展により、人々の求めるものが多様化する中で、価値の対象は「モノ」から「コト」へ変化してきていました。
目に見える課題を”研究開発”によりいかにして解決するかが重要でしたが、「コト」への需要は顧客自身にも課題が見えていないことが多く、従来より実施してきた内製型の「閉じた研究開発」では外部環境の変化に即応することが難しくなってきていました。
──事業環境の変化に対して強い課題意識を抱えられていたのですね。
大崎:また、ボトムアップの研究開発の必要性を強く意識していたということもありました。トップダウンで進めると「言わなくなるとやらなくなる」といった意識になってしまうケースが多くなります。ボトムアップで行うオープンイノベーションの組織を立ち上げることで研究開発において「チャレンジする」の文化が醸成されてきています。
──オープンイノベーション活用することでマインド面でもスピード感を高めることに名つながったのですね。オープンイノベーションにおいてポイントとしていることは何でしょうか。
大崎:「モノ×コト」を組み合わせた社会課題解決にポイントをおき、プロダクトイノベーションとプロセスイノベーションのどちらのイノベーションについても力を入れております。例えば、みなとみらいリサーチセンター内の「共創スペース」では、研究開発のショールームを展開し、直接モノを触りながら共創を行っています。
また、みなとみらいリサーチセンターに併設されている「オープンイノベーションスクエア」や「オープンイノベーションアリーナ」を活用して社内のコミュニケーションを活性化し、社内と社外の連携を「目立つ⇒つながる⇒挑戦する⇒機会創出」の一連の流れで取り組んでいます。
「閉じた研究開発」を変えるための交流の場
──続いてオープンイノベーションを活用した事業化への具体的な取組についてお伺いできればと存じます。御社では社内と社外の連携を「目立つ⇒つながる⇒挑戦する⇒機会創出」という流れで取り組んでいるとのことですが、まず、「目立つ」ための取組について教えてください。
大崎:社内外との架け橋や社内連携になるようなイベントを月に一回以上のペースで実施しています。
社外イベントでは、異分野の有識者を集めてパネルディスカッションを行う「異種格闘技戦」や2018年から量子アニーリング研究開発コンソーシアムのメンバーとして実施している量子アニーリングをテーマとした「ミニシンポジウム」など、また、社内連携では「企業別交流会」や「KYOCERA Venture Day」、「R&D Virtual Open Labo. Day」といった参加者にある種の共感や興味をもっていただけるようなイベントを数多く実施しております。
これらの取組の結果、現在ではイベントを実施するたびに数百人単位の参加者の集客へとつながっています。
また、オウンドメディアである「オープンイノベーションアリーナ」で様々な情報発信を行っています。同メディアではあえて自分たちのやりたいことに「絞らない」情報発信を行うことようにしており、これも「何か起こるかもしれない」相手とつながるために「すべてを否定しない」を基本としているからです。
──数百人単位で社内外を巻き込んだイベントについて毎月実施されるのは相当なご負担かと存じます。
大崎:社内外連携について繰り返し取り組みを進めていく中で、社内全体の風土としてよくなってきていることを感じます。例えばあるテーマで社内講習会を実施しようとなったときに関連部署の社員自ら手を挙げて参加してくれるようになってきていて、運営側としてもやりやすくなってきています。
元々、社内については上からの参加要請ではなく、自分たちの情報収集の場として主体的に参加しているというのが大きなポイントでしょう。
──社内風土の改善の影響がイベント運営にもつながっているのですね。続いて、「つながる」ための取組について教えてください。
大崎:私たちは探索に過大なコストをかけるのではなく、「目立つ」ことでベンチャーから話が来るように促進しています。自分たちが開発した出口の「意外な組み合わせ」を探すこともオープンイノベーションでは重視しています。
現状の課題として、京セラは事業の幅が広く、一つの事業部では扱えないものが多くなってきており、実証実験後の事業化に「挑戦する」際にすり合わせにおいて課題となっています。
この課題を解決するために事業が大きくなるまでを関連する事業部が見届けるようなシステムの構築を行っています。
人とヒトが出会い、交流し、協力し合う環境つくり
──御社が考えるオープンイノベーションのスタイルとは何でしょうか。
大崎:「一緒にやっていく、何か別の出口を探すスタイル」を大事にしています。研究を一緒に進めるパートナーを探す際にも、京セラのプラダクトに対してパートナーの技術で一緒に出口を探したり、パートナーのシーズに対して京セラの技術が活かせる出口を一緒に探したりしていくスタイルとなっています。
出口の基準をあえて決めていないことで、単なる企業課題の解決ではなく、社会課題解決につながる取組へとつなげています。
──「時代や市場が求める価値を独自技術と視点で切り開きカタチ」にするという、御社ならではの考え方ですね。最後にボトムアップで行うオープンイノベーションへ向かえない企業に対するアドバイスがありましたら教えてください。
大崎:私たちも最初は役員クラスが大企業化に対して強く危機感をもっており、組織の立ち上げなど行動を起こすことがきっかけとなって、ボトムアップの風土醸成がはじまりました。
まず、危機感をもち、それをメンバーに伝え続けることが重要だと思っています。
取材対象プロフィール
京セラ株式会社 オープンイノベーション推進部責任者
大崎 哲広氏
1991年青山学院大学理工学部物理学科卒業後、京セラ株式会社に入社。
滋賀の研究施設にて薄膜単結晶デバイスの研究開発に携わり、その後も結晶デバイス研究開発・研究開発推進・企画業務を歴任。
2015年に現みなとみらいリサーチセンターの一部前身であるソフトウェアラボの立ち上げに従事。その後通信ソリューションの開発マネジメントを経て2021年4月より現職。