お客さまと社会に新しい価値をお届けするため、エネルギー分野にとどまらず、日々進化するテクノロジーをいち早く取り入れ、次代をつくりだす、関西電力株式会社の虎竹 正樹氏(以下、虎竹)に話を伺った。 虎竹 正樹氏 「黒部ダム建設」から受け継がれるチャレンジ精神 ──御社は電力会社という安定した事業環境を軸としたビジネスを行われております。しかし、他の電力会社と比較すると「アイデア創出チャレンジ」や「アクセラレーションプログラム」、「起業チャレンジ」といったアクセラレータプログラムが非常に充実されており、イノベーションに対する意識が高いと感じております。こうしたイノベーションに関する取組を実施されている要因について教えてください。 虎竹:関西電力では世界屈指の難工事ともいわれた黒部ダムや日本初の加圧水型商業炉である美浜発電所1号機、電力会社で初めてメガソーラーを建設した堺太陽光発電所など、過去の事業を通していち早く取り組むチャレンジ精神が受け継がれています。また、2000年頃から「電力の自由化」等の環境変化を踏まえ、様々な取り組みを実施しておりましたが、本格的にイノベーションを推進するきっかけとなったのは東日本大震災による原子力発電所の停止でした。事業環境は激変し、従来のサービスや商品の磨き上げだけでは成長できない状況に変わっていったのです。 ──事業環境の変化に対してイノベーションの必要性が高まったのですね。 虎竹:その後、経営理念の大切な価値観の一つとして「挑戦(イノベーション)」を明文化し、グループ一丸となってイノベーションの推進に取り組んでいます。2019年に経営企画室内に設置した「イノベーションラボ」では、各部門やグループ会社がそれぞれ主体的にイノベーションを推進できるよう、イノベーション推進を支える仕組みを整備するとともに、新たな領域×中核領域での事業機会の探索や事業開発に取り組んでいます。 確立されたイントレプレナー創出制度による価値創造 ──続いてイノベーション人財の育成についてお伺いできればと存じます。御社では様々なイントレプレナー創出に関する取り組みを行われているとのことですが、具体的な内容について教えてください。 虎竹:1998年から「企業風土の活性化」と「グループの事業領域の拡大」を目的に「かんでん起業チャレンジ制度」がスタートし、2018年からは「アイデア創出チャレンジ」と「加速支援(アクセラレーション)プログラム」を組み込んだ3ステップでの社内起業家支援制度として運用しています。これらの3つのプログラムが、毎年、1年間で1サイクルするイメージですチャレンジを始めてから20年以上が経過しており、仕組みとして定着しています。また、人事制度の中でも、高いモチベーションのもと、多様なキャリアやフィールドに自発的にチャレンジできる社内公募型の制度や、就業時間の一部を用いて、本業以外の特定のプロジェクト等に従事できる「デュアルワーク」といった仕組みが整備されています。 ──全社的な取り組みとして積極的に推進されているからこそ、いくつもの案件が事業化に進んでいるのでしょうね。続いて「かんでん起業チャレンジ制度」等の3つのプログラムの具体的な取り組み内容について教えてください。 虎竹:最初に、全従業員が参加できるアイデアコンテストとして「アイデア創出チャレンジ」を実施しています。ここでは、どのような課題に関して、誰に、どのような価値を提供するのかというアイデアを発想してもらいます。その後、「加速支援(アクセラレーション)プログラム」では、将来的な事業化を目指し、外部の専門家とともに、アイデアをブラッシュアップします。最後に「かんでん起業チャレンジ制度」では、具体的な事業計画を策定し、審査を突破していくと、新しい会社を設立し、経営者として事業成長に全力で取り組むことになります。どの局面でも、プロジェクト起案者が主役で、事務局はサポーターです。検討の過程では、課題やニーズを発見するため、ヒアリング対象を自ら探し、インタビューし、その結果、想いのあるアイデアを大幅に変えるといった、あまり経験したことがない、困難なシーンに直面することが多々あります。事務局として、社内の関係者の紹介等、必要な支援はするものの、あくまでプロジェクト起案者が主体的に取り組むことを大事にしています。起案者の方々が、見知らぬ世界に飛び込み、経験を積み、成長されていく様を目の当たりにすることが、事務局として何よりの喜びです。 ──そうした支援の形がイントレプレナーのマインドセット形成につながっているのですね。最後にプロジェクトの承認ルートについて具体的に教えてください。 虎竹:会社のルールとして、起業チャレンジで事業化する案件に対して、予算や起業期間の目安が決められています。その中でプロジェクト起案者が誰の、どのような課題を、どのように解決するのかや、参入市場や競合他社の状況、収益性や成長性、将来的な既存事業との連携可能性などについて、役員の前でプレゼンを行い、外部の専門家の意見も踏まえて、事業化するかを決めています。現在(2022年4月時点)、かんでん起業チャレンジ制度発の、株式会社かんでんエルファーム、株式会社気象工学研究所、TRAPOL合同会社、株式会社猫舌堂、Yaala株式会社の5社が事業を継続しています。その他にもイノベーションラボ発でゲキダンイイノ合同会社や、海幸ゆきのや合同会社の事業化などの成果が出ています。イノベーション人財の育成については、挑戦へのマインド醸成や事業開発に関するビジネス・スキルの向上を図るため、セミナーや研修も実施しています。具体的には、社外のスタートアップの方による講演や、フレームワークを活用してビジネス・アイデアを考えてみるワークショップ等を実施しており、グループ会社も含め、多くの方に活用してもらっていると思います。 「かんでん起業チャレンジ」から生まれたTRAPOL合同会社 イノベーション人財育成のカギは自律的成長支援にあり ──御社が考えるイノベーション事業において成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトの差は何でしょうか。 虎竹:あくまで関西電力においての話ですが、中核事業と関連の強いプロジェクトが将来的に生き残っていくものとして多いと感じています。既存事業の設備や顧客基盤、ノウハウなどを活用できない事業は、どうしても競争を勝ち抜いていくことが難しいと思います。そのため、中期経営計画においても既存事業と関連がある、周辺領域で事業開発をすることを明確化しています。 ──プロジェクト起案者にとっても出口戦略が立てやすいのがよいのかもしれませんね。最後にイノベーションがうまくいかない企業に対するアドバイスがありましたら教えてください。 虎竹:当社もまだまだ試行錯誤している状況ですが、役員もイノベーションへの関心が高く、社員も気軽に新規事業に参加できる仕組みがあることがイノベーション人財の拡大につながっているのではないかと感じています。また、研修で座学だけではなく、手を動かすワークショップなどの取組も地道に行っていることもポイントかもしれません。いずれにせよ、承認者クラスの人がイノベーションに積極的であること、実務に即したイノベーションの経験機会を増やしていくことが重要だと思います。他社が積極的に取り組まれていると、当社もイノベーティブにという雰囲気が高まると思います。社外の関係者の方々とともに、新たな価値を創出し、成長していければと思っています。 取材対象プロフィール 関西電力株式会社 経営企画室 イノベーション推進グループ虎竹 正樹氏 2002年入社。営業所勤務を経て、広報部門等で報道対応業務に長く従事。また、財団法人に2度、出向し、財界の広報活動を経験。2021年7月より現職。 インタビュー実施日:2022年4月11日
お客さまと社会に新しい価値をお届けするため、エネルギー分野にとどまらず、日々進化するテクノロジーをいち早く取り入れ、次代をつくりだす、関西電力株式会社の虎竹 正樹氏(以下、虎竹)に話を伺った。
虎竹 正樹氏
「黒部ダム建設」から受け継がれるチャレンジ精神
──御社は電力会社という安定した事業環境を軸としたビジネスを行われております。しかし、他の電力会社と比較すると「アイデア創出チャレンジ」や「アクセラレーションプログラム」、「起業チャレンジ」といったアクセラレータプログラムが非常に充実されており、イノベーションに対する意識が高いと感じております。こうしたイノベーションに関する取組を実施されている要因について教えてください。
虎竹:関西電力では世界屈指の難工事ともいわれた黒部ダムや日本初の加圧水型商業炉である美浜発電所1号機、電力会社で初めてメガソーラーを建設した堺太陽光発電所など、過去の事業を通していち早く取り組むチャレンジ精神が受け継がれています。
また、2000年頃から「電力の自由化」等の環境変化を踏まえ、様々な取り組みを実施しておりましたが、本格的にイノベーションを推進するきっかけとなったのは東日本大震災による原子力発電所の停止でした。
事業環境は激変し、従来のサービスや商品の磨き上げだけでは成長できない状況に変わっていったのです。
──事業環境の変化に対してイノベーションの必要性が高まったのですね。
虎竹:その後、経営理念の大切な価値観の一つとして「挑戦(イノベーション)」を明文化し、グループ一丸となってイノベーションの推進に取り組んでいます。
2019年に経営企画室内に設置した「イノベーションラボ」では、各部門やグループ会社がそれぞれ主体的にイノベーションを推進できるよう、イノベーション推進を支える仕組みを整備するとともに、新たな領域×中核領域での事業機会の探索や事業開発に取り組んでいます。
確立されたイントレプレナー創出制度による価値創造
──続いてイノベーション人財の育成についてお伺いできればと存じます。御社では様々なイントレプレナー創出に関する取り組みを行われているとのことですが、具体的な内容について教えてください。
虎竹:1998年から「企業風土の活性化」と「グループの事業領域の拡大」を目的に「かんでん起業チャレンジ制度」がスタートし、2018年からは「アイデア創出チャレンジ」と「加速支援(アクセラレーション)プログラム」を組み込んだ3ステップでの社内起業家支援制度として運用しています。
これらの3つのプログラムが、毎年、1年間で1サイクルするイメージですチャレンジを始めてから20年以上が経過しており、仕組みとして定着しています。
また、人事制度の中でも、高いモチベーションのもと、多様なキャリアやフィールドに自発的にチャレンジできる社内公募型の制度や、就業時間の一部を用いて、本業以外の特定のプロジェクト等に従事できる「デュアルワーク」といった仕組みが整備されています。
──全社的な取り組みとして積極的に推進されているからこそ、いくつもの案件が事業化に進んでいるのでしょうね。続いて「かんでん起業チャレンジ制度」等の3つのプログラムの具体的な取り組み内容について教えてください。
虎竹:最初に、全従業員が参加できるアイデアコンテストとして「アイデア創出チャレンジ」を実施しています。ここでは、どのような課題に関して、誰に、どのような価値を提供するのかというアイデアを発想してもらいます。その後、「加速支援(アクセラレーション)プログラム」では、将来的な事業化を目指し、外部の専門家とともに、アイデアをブラッシュアップします。最後に「かんでん起業チャレンジ制度」では、具体的な事業計画を策定し、審査を突破していくと、新しい会社を設立し、経営者として事業成長に全力で取り組むことになります。
どの局面でも、プロジェクト起案者が主役で、事務局はサポーターです。検討の過程では、課題やニーズを発見するため、ヒアリング対象を自ら探し、インタビューし、その結果、想いのあるアイデアを大幅に変えるといった、あまり経験したことがない、困難なシーンに直面することが多々あります。事務局として、社内の関係者の紹介等、必要な支援はするものの、あくまでプロジェクト起案者が主体的に取り組むことを大事にしています。
起案者の方々が、見知らぬ世界に飛び込み、経験を積み、成長されていく様を目の当たりにすることが、事務局として何よりの喜びです。
──そうした支援の形がイントレプレナーのマインドセット形成につながっているのですね。最後にプロジェクトの承認ルートについて具体的に教えてください。
虎竹:会社のルールとして、起業チャレンジで事業化する案件に対して、予算や起業期間の目安が決められています。その中でプロジェクト起案者が誰の、どのような課題を、どのように解決するのかや、参入市場や競合他社の状況、収益性や成長性、将来的な既存事業との連携可能性などについて、役員の前でプレゼンを行い、外部の専門家の意見も踏まえて、事業化するかを決めています。
現在(2022年4月時点)、かんでん起業チャレンジ制度発の、株式会社かんでんエルファーム、株式会社気象工学研究所、TRAPOL合同会社、株式会社猫舌堂、Yaala株式会社の5社が事業を継続しています。
その他にもイノベーションラボ発でゲキダンイイノ合同会社や、海幸ゆきのや合同会社の事業化などの成果が出ています。
イノベーション人財の育成については、挑戦へのマインド醸成や事業開発に関するビジネス・スキルの向上を図るため、セミナーや研修も実施しています。具体的には、社外のスタートアップの方による講演や、フレームワークを活用してビジネス・アイデアを考えてみるワークショップ等を実施しており、グループ会社も含め、多くの方に活用してもらっていると思います。
「かんでん起業チャレンジ」から生まれたTRAPOL合同会社
イノベーション人財育成のカギは自律的成長支援にあり
──御社が考えるイノベーション事業において成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトの差は何でしょうか。
虎竹:あくまで関西電力においての話ですが、中核事業と関連の強いプロジェクトが将来的に生き残っていくものとして多いと感じています。既存事業の設備や顧客基盤、ノウハウなどを活用できない事業は、どうしても競争を勝ち抜いていくことが難しいと思います。そのため、中期経営計画においても既存事業と関連がある、周辺領域で事業開発をすることを明確化しています。
──プロジェクト起案者にとっても出口戦略が立てやすいのがよいのかもしれませんね。最後にイノベーションがうまくいかない企業に対するアドバイスがありましたら教えてください。
虎竹:当社もまだまだ試行錯誤している状況ですが、役員もイノベーションへの関心が高く、社員も気軽に新規事業に参加できる仕組みがあることがイノベーション人財の拡大につながっているのではないかと感じています。また、研修で座学だけではなく、手を動かすワークショップなどの取組も地道に行っていることもポイントかもしれません。
いずれにせよ、承認者クラスの人がイノベーションに積極的であること、実務に即したイノベーションの経験機会を増やしていくことが重要だと思います。他社が積極的に取り組まれていると、当社もイノベーティブにという雰囲気が高まると思います。社外の関係者の方々とともに、新たな価値を創出し、成長していければと思っています。
取材対象プロフィール
関西電力株式会社 経営企画室 イノベーション推進グループ
虎竹 正樹氏
2002年入社。営業所勤務を経て、広報部門等で報道対応業務に長く従事。また、財団法人に2度、出向し、財界の広報活動を経験。2021年7月より現職。