Tokyo Marunouchi Innovation Platform(以下、TMIP)で、丸の内を舞台に、多様なパートナーとの連携によるグローバルマーケットに向けたイノベーションの創出を支援する、三菱地所株式会社の山下 聡一氏(以下、山下)に話を伺った。 山下 聡一氏 一社だけでは解決できない社会課題を解決する ──2019年8月に設立されたTMIPについて、取組をはじめられた経緯について具体的に教えてください。 山下:三菱地所では2019年以前から大手町・丸の内・有楽町(以下、大丸有エリア)を中心としたビジネス街にて、継続的にイノベーション創出支援を行っていました。2019年に東京都がイノベーション・エコシステム形成促進支援事業として、イノベーション創出を目的とした政策を上げたことを受けて、以前から進めていたイノベーション活動の事業化とあわせてTMIPを設立しました。 ──時代の要請に応えた結果がTMIPの設立だったのですね。TMIPの特徴についても具体的に教えてください。 山下:TMIPの特徴は「大企業」を中心としたイノベーション活動の支援にあります。もともと、大丸有エリアでは一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会という地権者を中心とした大丸有エリアの街づくりを考えていく組織はありましたが、大丸有エリアに入居するビジネスマンの横の繋がりを支援する仕組みがないことを当社としては課題と感じておりました。そこで、大丸有エリアに集積する大企業のコミュニティづくりを目的とし、スタートアップとの連携や産官学との共同開発が行えるようなプラットフォームとして、三菱地所がTMIPを立ち上げ、大企業における新規事業やイノベーション創出ができるようなコミュニティづくりを進めています。 ──大丸有エリアにおけるハード面の整備だけでなく、ソフトの面の支援も行っていく一環としてのTMIPを中心としたコミュニティづくりだったのですね。TMIPにおける具体的な活動内容についても教えてください。 山下:TMIPでは社会的にインパクトのある会員企業のイノベーション創出を目指し、きっかけづくり、仲間・同志づくり、イノベーションづくりにつながるサポートを行っています。「イノベーションコミュニティ」では会員企業同士の横のつながりを生み出しております。仲間・同志づくりとして、特定のテーマを継続的に議論する「イノベーションサークル」の活動を行っており、イノベーション創出のプロセスとして実証実験等の支援を行う「アーバンラボ」の三段階に分けてサポートを行っています。また、イノベーション創出を促進するための政策提言や規制緩和支援として「アドボカシー」の取組もあわせて実施しています。 ──各取組を通じてオープンイノベーションのプロジェクト化へ進んでいくのですね。各サポートの内容として「イノベーションコミュニティ」の取組について教えてください。 山下:「イノベーションコミュニティ」では、TMIPのアドバイザーに就任下さっている産・官・学・街に関する多様な専門家やTMIPパートナー等にご協力いただき、会員企業のイノベーション創出の一助となるような先進的な事例をピックアップしたイベントや大学連携を目的としたイベントなどを開催しております。その他にも「コミュニティ創出」を目的として会員企業に登壇してもらい、自社のイノベーションにおける活動内容や課題等の発表をしてもらって互いの活動の相互理解を促しており、月2回ほどのペースで実施しています。 ──「イノベーションサークル」の取組について教えてください。 山下:「イノベーションサークル」は2022年2月から本格的に開始した取組で、会員企業やパートナーが主体となって社会課題や新技術に関する特定のテーマに関心を持つ同志を集め、意見交換や勉強会を定期的に開催するサークルの立ち上げを支援しています。具体的な支援内容としては、サークル立上げ時の企画支援、サークル活動、イベント等の告知・集客支援、活動の場の提供等を行っています。 ──「アーバンラボ」の取組について教えてください。 山下:「アーバンラボ」では、事業創出までのプロセスとして、ニーズ検証や実証実験を実施したい場合、大丸有エリアという街を使ったサポートを会員企業と共に行っています。 パートナー同士の連携を推進する「プラットフォーム」としての役割 ──続いてTMIPにおける会員企業への支援内容について具体的に教えてください。 山下:基本的には前述した支援メニューに沿ってプラットフォームとしてサポートをしています。TMIPは企業間のコミュニケーション促進や情報提供を行うことで、イノベーション支援を行っています。2022年度からは、オンラインでもコミュニティ組成を促すためにコミュニティサイトを導入し、更なる活性化を目指しています。これまでもオンラインにて、イベントやセミナーを開催していましたが、参加者の考えや感じていることを深堀し、表に出すことが難しいという課題がありましたが、コミュニティサイトを導入することで、コミュニケーションの集約やユーザー間での自発的なコミュニケーションによるインサイトの発掘、一つのプラットフォームにデータ集約されることで、データ分析に基づくアクションの最適化を目指せると考えています。 ──コミュニティづくりに軸足を置いて活動されていることがよくわかります。協業先の探索支援や事業化に向けた支援についても具体的に教えてください。 山下:協業先探索の支援については、TMIP会員の情報、スタートアップの情報をリストとして保持しており、その中から協業先を紹介しています。スタートアップについてはVCや大丸有エリアに活動しているイノベーション施設を経由して情報を得ています。事業化に向けた支援では先ほどもお話しした通り、実証実験のサポートが主になります。私たちは実証実験が新規事業の事業化を進めるための「緩衝材」の役割をもっていると考えており、実証実験のサポートにおいても単なる場所貸しではなく、よりよいユーザーエクスペリエンスを提供するため、社内のデータや部署内のデータと連携した支援を行っています。特に2020年のLuup社との電動キックボードの実証実験においてはメディア各局に注目されるなど成功につながったと考えています。 大丸有エリアから広がるエコシステム ──まさしくTMIPは大丸有エリアにおけるエコシステムですね。他のエリアとのつながりはあるのでしょうか。 山下:他の地域との繋がりは私たちとしてもとても重視しています。その理由として「大丸有エリアは地方に一番近い東京」という側面があるからです。現在、つくば市や北九州市、神戸市との連携を行っており、今後もより積極的に、他の地域の取り組み情報を得ていく必要があると考えています。色々な団体の事例を勉強し、時には繋がりながらイノベーションを行っていきたいと思っております。 取材対象プロフィール 三菱地所株式会社 エリアマネジメント企画部・TMIP事務局 マネージャー山下 聡一氏 三菱地所株式会社に2010年入社。オフィスビルの管理運営統括業務等に携わった後、東北支店にて多種多様な不動産の運営・開発に従事する。2019年よりTMIPの立ち上げ、運営を実施。大丸有エリアのイノベーション・エコシステム形成に向けて、大手企業とスタートアップ・官・学・街の連携をサポートする。 インタビュー実施日:2022年5月9日
Tokyo Marunouchi Innovation Platform(以下、TMIP)で、丸の内を舞台に、多様なパートナーとの連携によるグローバルマーケットに向けたイノベーションの創出を支援する、三菱地所株式会社の山下 聡一氏(以下、山下)に話を伺った。
山下 聡一氏
一社だけでは解決できない社会課題を解決する
──2019年8月に設立されたTMIPについて、取組をはじめられた経緯について具体的に教えてください。
山下:三菱地所では2019年以前から大手町・丸の内・有楽町(以下、大丸有エリア)を中心としたビジネス街にて、継続的にイノベーション創出支援を行っていました。
2019年に東京都がイノベーション・エコシステム形成促進支援事業として、イノベーション創出を目的とした政策を上げたことを受けて、以前から進めていたイノベーション活動の事業化とあわせてTMIPを設立しました。
──時代の要請に応えた結果がTMIPの設立だったのですね。TMIPの特徴についても具体的に教えてください。
山下:TMIPの特徴は「大企業」を中心としたイノベーション活動の支援にあります。もともと、大丸有エリアでは一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会という地権者を中心とした大丸有エリアの街づくりを考えていく組織はありましたが、大丸有エリアに入居するビジネスマンの横の繋がりを支援する仕組みがないことを当社としては課題と感じておりました。
そこで、大丸有エリアに集積する大企業のコミュニティづくりを目的とし、スタートアップとの連携や産官学との共同開発が行えるようなプラットフォームとして、三菱地所がTMIPを立ち上げ、大企業における新規事業やイノベーション創出ができるようなコミュニティづくりを進めています。
──大丸有エリアにおけるハード面の整備だけでなく、ソフトの面の支援も行っていく一環としてのTMIPを中心としたコミュニティづくりだったのですね。TMIPにおける具体的な活動内容についても教えてください。
山下:TMIPでは社会的にインパクトのある会員企業のイノベーション創出を目指し、きっかけづくり、仲間・同志づくり、イノベーションづくりにつながるサポートを行っています。
「イノベーションコミュニティ」では会員企業同士の横のつながりを生み出しております。仲間・同志づくりとして、特定のテーマを継続的に議論する「イノベーションサークル」の活動を行っており、イノベーション創出のプロセスとして実証実験等の支援を行う「アーバンラボ」の三段階に分けてサポートを行っています。また、イノベーション創出を促進するための政策提言や規制緩和支援として「アドボカシー」の取組もあわせて実施しています。
──各取組を通じてオープンイノベーションのプロジェクト化へ進んでいくのですね。各サポートの内容として「イノベーションコミュニティ」の取組について教えてください。
山下:「イノベーションコミュニティ」では、TMIPのアドバイザーに就任下さっている産・官・学・街に関する多様な専門家やTMIPパートナー等にご協力いただき、会員企業のイノベーション創出の一助となるような先進的な事例をピックアップしたイベントや大学連携を目的としたイベントなどを開催しております。
その他にも「コミュニティ創出」を目的として会員企業に登壇してもらい、自社のイノベーションにおける活動内容や課題等の発表をしてもらって互いの活動の相互理解を促しており、月2回ほどのペースで実施しています。
──「イノベーションサークル」の取組について教えてください。
山下:「イノベーションサークル」は2022年2月から本格的に開始した取組で、会員企業やパートナーが主体となって社会課題や新技術に関する特定のテーマに関心を持つ同志を集め、意見交換や勉強会を定期的に開催するサークルの立ち上げを支援しています。
具体的な支援内容としては、サークル立上げ時の企画支援、サークル活動、イベント等の告知・集客支援、活動の場の提供等を行っています。
──「アーバンラボ」の取組について教えてください。
山下:「アーバンラボ」では、事業創出までのプロセスとして、ニーズ検証や実証実験を実施したい場合、大丸有エリアという街を使ったサポートを会員企業と共に行っています。
パートナー同士の連携を推進する「プラットフォーム」としての役割
──続いてTMIPにおける会員企業への支援内容について具体的に教えてください。
山下:基本的には前述した支援メニューに沿ってプラットフォームとしてサポートをしています。TMIPは企業間のコミュニケーション促進や情報提供を行うことで、イノベーション支援を行っています。
2022年度からは、オンラインでもコミュニティ組成を促すためにコミュニティサイトを導入し、更なる活性化を目指しています。
これまでもオンラインにて、イベントやセミナーを開催していましたが、参加者の考えや感じていることを深堀し、表に出すことが難しいという課題がありましたが、コミュニティサイトを導入することで、コミュニケーションの集約やユーザー間での自発的なコミュニケーションによるインサイトの発掘、一つのプラットフォームにデータ集約されることで、データ分析に基づくアクションの最適化を目指せると考えています。
──コミュニティづくりに軸足を置いて活動されていることがよくわかります。協業先の探索支援や事業化に向けた支援についても具体的に教えてください。
山下:協業先探索の支援については、TMIP会員の情報、スタートアップの情報をリストとして保持しており、その中から協業先を紹介しています。スタートアップについてはVCや大丸有エリアに活動しているイノベーション施設を経由して情報を得ています。
事業化に向けた支援では先ほどもお話しした通り、実証実験のサポートが主になります。
私たちは実証実験が新規事業の事業化を進めるための「緩衝材」の役割をもっていると考えており、実証実験のサポートにおいても単なる場所貸しではなく、よりよいユーザーエクスペリエンスを提供するため、社内のデータや部署内のデータと連携した支援を行っています。
特に2020年のLuup社との電動キックボードの実証実験においてはメディア各局に注目されるなど成功につながったと考えています。
大丸有エリアから広がるエコシステム
──まさしくTMIPは大丸有エリアにおけるエコシステムですね。他のエリアとのつながりはあるのでしょうか。
山下:他の地域との繋がりは私たちとしてもとても重視しています。その理由として「大丸有エリアは地方に一番近い東京」という側面があるからです。
現在、つくば市や北九州市、神戸市との連携を行っており、今後もより積極的に、他の地域の取り組み情報を得ていく必要があると考えています。
色々な団体の事例を勉強し、時には繋がりながらイノベーションを行っていきたいと思っております。
取材対象プロフィール
三菱地所株式会社 エリアマネジメント企画部・TMIP事務局 マネージャー
山下 聡一氏
三菱地所株式会社に2010年入社。オフィスビルの管理運営統括業務等に携わった後、東北支店にて多種多様な不動産の運営・開発に従事する。2019年よりTMIPの立ち上げ、運営を実施。大丸有エリアのイノベーション・エコシステム形成に向けて、大手企業とスタートアップ・官・学・街の連携をサポートする。