次世代を創るベンチャー企業と協業しながら、ますます加速するデジタル化に対応し、新しい世界を創っていく、凸版印刷株式会社の福島 慎吾氏(以下、福島)に話を伺った。 福島 慎吾氏 三位一体の“実証型”プログラム ──御社はオープンイノベーションを活用した新規事業開発として、「co-necto」というプログラムを実践されておりますが、同プログラムを始められることになったきっかけについて教えてください。 福島:弊社の主業である印刷テクノロジーを主軸とした既存事業は、データ化の流れなどから中長期的には市場の縮小が想定され、新規事業開発の必要性が高まっておりました。しかし、社内だけのリソースではスピード感やアイデア創出へ課題も感じており、オープンイノベーションという方法で解決できないかと考えました。 組織を立ち上げた2017年当時、福岡市では国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」として先進的な取り組みを進めており、行政の協力が得やすいことや「九州地域」自体がオープンイノベーションの土壌としてよかったことから、福岡市にてアクセラレーションプログラムである「co-necto」をスタートいたしました。 ──福岡市ではスタートアップ向けの法人減税など、面白い支援の取組を実施されておりますものね。 福島:始めた当初の「co-necto」は弊社によるコンテスト形式のプログラムで、あくまで凸版印刷株式会社との共同の事業化を目的としたものでしたが、現在は凸版印刷株式会社とスタートアップ、地域のパートナー企業とで共創する“実証型”プログラムに変わってきています。 と言いますのも凸版印刷株式会社にとって「co-necto」の目的はあくまで事業化であり、多様なテーマの事業アイデアに対してスピード感のある実証を行うためにはパートナー企業を巻き込んだ方がよかったからです。 大まかな流れとしては毎年7月上旬にスタートアップから事業アイデアの募集を始め、凸版印刷株式会社にて書類審査で20社ほどに絞り込みます。その後、パートナー企業と選定を行い、採択された事業アイデアについては実証へと進んでおります。 たった一年でアイデアを事業化するためには ──続いて「co-necto」による事業アイデア募集から事業化までの具体的な取組についてお伺いできればと存じます。「co-necto」ではパートナー企業への事業アイデアの提案の前に書類選考をされているとのことですが、ポイントとしていることを教えてください。 福島:書類選考時点では「競争の優位性」、「マーケット性」、「社会課題解決に対する貢献度」、「パートナー企業・凸版印刷株式会社のニーズに合った実証実験計画をもっているか」の4点を選定の際の軸としており、特に四つめの「実証実験計画の有無」は非常に重視しております。 なお、実際に本プログラムを通過後、パートナー企業と実証実験を共同で検討する際には、細かい収益まではいきませんが、ある程度のビジネスモデルを組んでから進めるようにしています。 ──事業化という目的に沿って事業アイデアの選定をされていることがよくわかります。次に実証実験フェーズに進む前に契約上での課題等はありますでしょうか。 福島:まず、権利の保護として「co-necto」へ応募いただいた時点で保有する特許等の確認を行い、採択後にNDAを締結した上でお互いの役割分担を明確にし、実証実験を進めています。 また、販売ネットワークや人材、開発にかかる費用など弊社で対応できることは何でもやるというスタンスで進めています。 ──スタートアップにとっても安心ですし、効率的な運用がなされているのですね。続いて、実証実験フェーズについて教えてください。 福島:実証実験は二次選考後の10月頃よりスタートアップ及びパートナー企業と計画を検討し、早いものであれば年明けから実証実験を始めます。サービスやプロダクトによっては1年以内に事業化の可否判断を行うようにしており、これまでの実施でパートナー企業も実証実験までの流れに慣れてきておりますので、スピード感を持って対応できています。 ──募集が7月頃からというと半年で実証実験まで進むというのは非常に早い運用ですね。実証実験において大切にしていることがあれば教えてください。 福島:当社としてはスタートアップよりも汗をかく覚悟で顧客を探し、実証実験計画での仮説が正しいのか、場合によっては途中で仮説を修正して実証を行う、ということを繰り返します。事業化にあたっては「Nice to have」ではなく「Must have」と顧客が感じられるようなニーズのあるサービスやプロダクトでないといけませんし、実証実験の結果をフィードバックする場を設けることで「お金を払っても使いたいもの」の開発に挑んでおります。 ──スタートアップのシーズをパートナー企業が把握しているニーズに結び付けられるように貴社がコーディネートされているのですね。実証実験後、事業化への承認フローについて教えてください。 福島:投資費用によって承認フローは異なっておりますので、九州事業部での決裁条件を超えるものに関しては本社レベルでの承認を受けております。ただ、本取り組みの社内理解が広がってきているということもあって、「温かい目」で承認を受けていると感じております。 これも上層部が新規事業への取り組みは当たり前というスタンスを持っているからでしょう。 事業アイデアを成功に導くポイント ──「co-necto」という“実証型”のプログラムにおける事業化までの各種フローについて大変、参考になりました。なお、事業化までの資金負担はどのように設定しているのでしょうか。 福島:計画段階で描いた事業を実証実験フェーズで試して、事業化に進む案件についてはさらに事業計画を精緻化します。その際は凸版印刷株式会社、パートナー企業、スタートアップの役割分担を明確にし、役割に応じて投資を行うことになります。受発注の関係ではなく、対等なパートナーとして資金だけではなく各社のアセットを提供して事業を成功に導くように進めています。 ──最後に御社が感じている事業化で成功する事例と失敗する事例の違いについて教えてください。 福島:事業アイデアを企画する段階で顧客のペインの深さと、なぜそのサービスやプロダクトでないと解決できないのか、という点が一つの大きなポイントと感じています。 取材対象プロフィール 凸版印刷株式会社 DX推進部 係長福島 慎吾氏 九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻修了。経営学修士。大手医療機関や教育機関での経営企画や新規事業開発に従事した後、2017年に凸版印刷株式会社へ入社。アクセラレーションプログラムである「co-necto」を立ち上げ、2022年で6期目の開催となる。スタートアップとの協業による新事業創出を数多く手がけると同時に、福岡を中心とした大手地場企業の新規事業担当者ネットワークを有し、コミュニティ形成による企業間の協業の場づくりも実施している。 インタビュー実施日:2022年6月20日
次世代を創るベンチャー企業と協業しながら、ますます加速するデジタル化に対応し、新しい世界を創っていく、凸版印刷株式会社の福島 慎吾氏(以下、福島)に話を伺った。
福島 慎吾氏
三位一体の“実証型”プログラム
──御社はオープンイノベーションを活用した新規事業開発として、「co-necto」というプログラムを実践されておりますが、同プログラムを始められることになったきっかけについて教えてください。
福島:弊社の主業である印刷テクノロジーを主軸とした既存事業は、データ化の流れなどから中長期的には市場の縮小が想定され、新規事業開発の必要性が高まっておりました。しかし、社内だけのリソースではスピード感やアイデア創出へ課題も感じており、オープンイノベーションという方法で解決できないかと考えました。
組織を立ち上げた2017年当時、福岡市では国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」として先進的な取り組みを進めており、行政の協力が得やすいことや「九州地域」自体がオープンイノベーションの土壌としてよかったことから、福岡市にてアクセラレーションプログラムである「co-necto」をスタートいたしました。
──福岡市ではスタートアップ向けの法人減税など、面白い支援の取組を実施されておりますものね。
福島:始めた当初の「co-necto」は弊社によるコンテスト形式のプログラムで、あくまで凸版印刷株式会社との共同の事業化を目的としたものでしたが、現在は凸版印刷株式会社とスタートアップ、地域のパートナー企業とで共創する“実証型”プログラムに変わってきています。
と言いますのも凸版印刷株式会社にとって「co-necto」の目的はあくまで事業化であり、多様なテーマの事業アイデアに対してスピード感のある実証を行うためにはパートナー企業を巻き込んだ方がよかったからです。
大まかな流れとしては毎年7月上旬にスタートアップから事業アイデアの募集を始め、凸版印刷株式会社にて書類審査で20社ほどに絞り込みます。その後、パートナー企業と選定を行い、採択された事業アイデアについては実証へと進んでおります。
たった一年でアイデアを事業化するためには
──続いて「co-necto」による事業アイデア募集から事業化までの具体的な取組についてお伺いできればと存じます。「co-necto」ではパートナー企業への事業アイデアの提案の前に書類選考をされているとのことですが、ポイントとしていることを教えてください。
福島:書類選考時点では「競争の優位性」、「マーケット性」、「社会課題解決に対する貢献度」、「パートナー企業・凸版印刷株式会社のニーズに合った実証実験計画をもっているか」の4点を選定の際の軸としており、特に四つめの「実証実験計画の有無」は非常に重視しております。
なお、実際に本プログラムを通過後、パートナー企業と実証実験を共同で検討する際には、細かい収益まではいきませんが、ある程度のビジネスモデルを組んでから進めるようにしています。
──事業化という目的に沿って事業アイデアの選定をされていることがよくわかります。次に実証実験フェーズに進む前に契約上での課題等はありますでしょうか。
福島:まず、権利の保護として「co-necto」へ応募いただいた時点で保有する特許等の確認を行い、採択後にNDAを締結した上でお互いの役割分担を明確にし、実証実験を進めています。
また、販売ネットワークや人材、開発にかかる費用など弊社で対応できることは何でもやるというスタンスで進めています。
──スタートアップにとっても安心ですし、効率的な運用がなされているのですね。続いて、実証実験フェーズについて教えてください。
福島:実証実験は二次選考後の10月頃よりスタートアップ及びパートナー企業と計画を検討し、早いものであれば年明けから実証実験を始めます。サービスやプロダクトによっては1年以内に事業化の可否判断を行うようにしており、これまでの実施でパートナー企業も実証実験までの流れに慣れてきておりますので、スピード感を持って対応できています。
──募集が7月頃からというと半年で実証実験まで進むというのは非常に早い運用ですね。実証実験において大切にしていることがあれば教えてください。
福島:当社としてはスタートアップよりも汗をかく覚悟で顧客を探し、実証実験計画での仮説が正しいのか、場合によっては途中で仮説を修正して実証を行う、ということを繰り返します。事業化にあたっては「Nice to have」ではなく「Must have」と顧客が感じられるようなニーズのあるサービスやプロダクトでないといけませんし、実証実験の結果をフィードバックする場を設けることで「お金を払っても使いたいもの」の開発に挑んでおります。
──スタートアップのシーズをパートナー企業が把握しているニーズに結び付けられるように貴社がコーディネートされているのですね。実証実験後、事業化への承認フローについて教えてください。
福島:投資費用によって承認フローは異なっておりますので、九州事業部での決裁条件を超えるものに関しては本社レベルでの承認を受けております。ただ、本取り組みの社内理解が広がってきているということもあって、「温かい目」で承認を受けていると感じております。
これも上層部が新規事業への取り組みは当たり前というスタンスを持っているからでしょう。
事業アイデアを成功に導くポイント
──「co-necto」という“実証型”のプログラムにおける事業化までの各種フローについて大変、参考になりました。なお、事業化までの資金負担はどのように設定しているのでしょうか。
福島:計画段階で描いた事業を実証実験フェーズで試して、事業化に進む案件についてはさらに事業計画を精緻化します。その際は凸版印刷株式会社、パートナー企業、スタートアップの役割分担を明確にし、役割に応じて投資を行うことになります。受発注の関係ではなく、対等なパートナーとして資金だけではなく各社のアセットを提供して事業を成功に導くように進めています。
──最後に御社が感じている事業化で成功する事例と失敗する事例の違いについて教えてください。
福島:事業アイデアを企画する段階で顧客のペインの深さと、なぜそのサービスやプロダクトでないと解決できないのか、という点が一つの大きなポイントと感じています。
取材対象プロフィール
凸版印刷株式会社 DX推進部 係長
福島 慎吾氏
九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻修了。経営学修士。大手医療機関や教育機関での経営企画や新規事業開発に従事した後、2017年に凸版印刷株式会社へ入社。アクセラレーションプログラムである「co-necto」を立ち上げ、2022年で6期目の開催となる。スタートアップとの協業による新事業創出を数多く手がけると同時に、福岡を中心とした大手地場企業の新規事業担当者ネットワークを有し、コミュニティ形成による企業間の協業の場づくりも実施している。