「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」の実現に取り組む、アサヒビール株式会社 マーケティング本部イノベーション戦略部 部長 東奥 智久氏に話を伺った。 東奥 智久氏 新たな価値の創造、新市場の創出に向けた本格的な活動 ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 東奥:アサヒビール株式会社では、以前から原料や資材のサプライヤーと一緒に共同で新しい価値を提供するという取り組みは行っておりましたが、2010年代に入った頃から、日本国内におけるビール類の消費数量が減少し続けている中で、業界内だけでの交流による限界を感じ始め、異業種交流や異なる分野の研究者との交流を少しずつ始めました。 具体的な形として、2019年1月に社内横断型の組織である「事業推進室」を設置しました。経営企画、マーケティング、研究開発、生産、営業の各本部から中堅社員をメンバーとして選任し、コワーキングスペースの「WeWork」にサテライトオフィスを設置するなど、社外とのオープンイノベーションによる新たな価値の創造、新市場の創出に向けた本格的な活動を開始しました。 2019年8月には、オープンイノベーションプロジェクト「AXS」(アクロス:ASAHI CROSS PROJECTs)を始動し、エコカップ「森のタンブラー」、新感覚ビアカクテル「BEER DROPS」などを生み出してきました。最近では2021年4月から発売を開始した「スーパードライ生ジョッキ缶」もオープンイノベーションにより実現した商品だと考えています。 ─―オープンイノベーションプロジェクトの始動から、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 東奥:アサヒビール株式会社では、「すべてのお客さまに最高の明日を。」という長期スローガンのもと、アルコール飲料の商品を提供するだけではなく、アルコール飲料に関する様々な体験価値を提供したいと考えています。そのために当社が保有している、創って・造って・運んで・販売するバリューチェーンの強みを把握したうえで、自社だけでは実現できないような体験価値を創造することを目的にオープンイノベーションに注力することしました。 オープンイノベーションによる売上・利益などの定量的な目的・目標を設定することはしていませんが、自前主義にこだわりすぎることなく、広く社外にも情報を開示し、社外からも積極的に情報取集する中で、「生ジョッキ缶」など、いくつかの具体的な体験価値の創造ができていることや、社内でもオープンイノベーションを当たり前の手段と捉えて、技術紹介や意見交換の場を持つようになっており、当初の目的に沿った取り組みになっていると感じています。 ─―技術紹介や意見交換の場を大切にしていることは素晴らしいですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 東奥:オープンイノベーションという言葉を意識したのは2010年代以降ですが、当社の商品を創って・造って・運んで・販売する中で、自社の技術だけでできることは限られており、創業時から社外の様々な方と連携しながら商品・サービスを生み出してきました。オープンイノベーションを実施していなければ、存続できていなかったと思いますし、今後はますます重要性が高まっていくものと思います。 ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、商品アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 東奥:まだまだ、試行錯誤を続けているところです。社内で商品アイディアを募集するとお客さまにも大きな期待を持っていただけるものがいくつか出てくるのですが、初期的調査の結果、技術的に実現困難であるものや、実現できても販売価格が莫大になるようなものがほとんどであり、パイプラインとして登録できるものは多くありません。一方で、技術的な制約を知りすぎている中で検討したアイディアではお客さまの大きな期待には至らないことが多く、期待度と実現可能性の両立には苦慮し続けています。 ─―ではその課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 東奥:「こんなことが実現できると嬉しい」とお客さまは期待しているということを常に把握しておくために、共感度や新奇性の高いコンセプトを共有する場を設けています。また、社外からの新しい素材や技術に関する情報を広く共有する場も設けています。 ─―社内のパイプライン強化や外部の声を拾うことがポイントなのですね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 東奥:社内およびグループ会社における人脈を活かすほか、コワーキングスペース「Point 0 marunouchi」にサテライトオフィスを設置し、参画している企業との交流や情報収集も行っています。大企業や大学との連携をする機会が多く、スタートアップとのオープンイノベーション実績は、今のところあまり多くありません。 ─―スタートアップとのオープンイノベーションがあまり多くない要因や実施に向けて取り組まれていることがあれば教えて下さい。 東奥:かつては、スタートアップの方が期待するスピード感と当社のスピード感が合わずに協業できなかったこともあったと感じています。当社もオープンイノベーションの実績が少しずつ積みあがってきており、意思決定も迅速化してきており、今後はスタートアップとの協業も増えていくと考えています。 2022年11月から、お客さまとの直接的な接点としてASAHI HAPPY PROJECTという直接販売サイトを立ち上げました。このサイトでテスト販売する商品やWEBページのデザインなどを「Wemake」を通じて個人デザイナーに依頼する取り組みも行っております。スタートアップや個人で特別な技術を持っている方々と、幅広く連携していきたいと考えています。 ─―続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 東奥:オープンイノベーションを行う際には、事前に秘密保持契約を締結したうえで、当社からは積極的に情報開示するようにしています。どこから新たな価値創造が生まれるかを予想することは困難なため、制限をかけすぎないように意識しています。 また、意思決定をする際には、権限規定に沿って行うことを意識しています。慣習上、権限規定を上回る関係者への事前確認を行いがちですが、それに伴って意思決定のスピードが落ちないように注意しています。 ─―意思決定のスピードに注意されているのですね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 東奥:PoCで起こりがちなことが、明確な基準のないままPoCを繰り返してしまうことだと感じていました。経営資源を投入してきた中で、中止するのはもったいないと考えてしまいがちであり、経営陣がしっかりと判断するべきだと考えています。現在は、PoCを行う際に、1.次のステップに進めるもの、2.修正して継続検討するもの、3.中止するものの3段階の評価基準をあらかじめ設定したうえで開始するようにしています。経営資源を適切に投入するために、極めて重要な意思決定のしくみと考えています。 ─―PoCの評価を事前に評価基準を決めてから行うようにしているのですね。では続いて、商品化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 東奥:「スーパードライ生ジョッキ缶」の上市は、当社にとっても大きな決断でした。缶の蓋を開けるとともに内側から泡が立ち上がり、料飲店で生ジョッキを飲んでいるような体験価値を提案できる商品ですが、お客さまの家庭などにおいて、最適な温度に冷やしていただかないと泡が噴きこぼれてしまうことや、泡がほとんど出ないことが発生する懸念がありました。 社内では、お客さまがどのような冷やし方をされても安定した泡立ちを実現できるまで上市を見送るべきではないかという指摘もありましたが、缶のデザインや様々な広告宣伝の場で、最適な冷やし方・飲み方を提案するなどの最大限の対策を行ったうえで、上市するという意思決定をしました。 結果的には、多くのお客さまが、泡が噴きこぼれてしまうことも含めて、「生ジョッキ缶」の体験価値を喜んでいただくことができました。リスクと機会を可視化し、経営陣が最終的な意思決定をできるようにすることが重要であると認識しています。 ─―意見が割れる中での商品化は中々難しいですね。続いて、スケール化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 東奥:当社の場合、商品開発やPoCなどのスケールから、全国で発売するような量産製造に移行する際に、原料・資材の確保や専用設備の導入などのリードタイムが1年から2年ほど必要となることが大きな課題です。これまでは、事前にしっかりと調査をしたうえで、最初から全国で一斉発売することを意思決定し、原料・資材の確保や設備投資を実施してきました。 しかし、新しい市場を創造するような商品については、事前の調査だけでは見極めきれないことも多く、現在は、小さく造って、実際にお客さまに購入いただいて見極める開発プロセスも導入し始めています。この場合、お客さまに評判がよかったと確認できてから、全国的な販売を実現するまでに1-2年を要してしまうこともあり、量産までの期間短縮が今後の課題と認識しています。 スタートアップとの協業への課題 ─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。 東奥:商品開発において、マーケティング部門からの要請に応じて、具体的な商品コンセプトをもとに開発を行う通常の開発プロセスとは別に、部署を横断したグループで、N=1のお客さまを創造しながら開発した商品・サービスや、外部から得られた新たな原料・資材の情報を活かした商品・サービスを提案する場を設けています。業務時間の20%を通常業務とは異なる新たな価値創造のための「イノベーションデー」として活動するようにしています。 ─―各部署の連携を大事にされているのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。 東奥:スタートアップとの協業実績は、まだ多くはありませんが、個人デザイナーとの協業などは始めており、大きな可能性を感じています。人と人とのつながりの中で得られた情報や知見が、個人だけに埋もれてしまわないように社内で共有する場を設けながら、活かせるものを見つけていければと考えています。 ─―では最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。 東奥:当社の事業拠点は国内に多数あり、事業活動を通して地方を盛り上げていきたいと考えており、地方の行政とも連携させていただきたいと希望しています。 取材対象プロフィール アサヒビール株式会社 マーケティング本部 イノベーション戦略部 部長東奥 智久氏 京都府出身。東京大学大学院修了。2021年4月1日より現職。 アサヒビール(株)マーケティング本部には、マーケティング部門と研究開発部門があり、東奥氏は、主に研究開発部門におけるオープンイノベーションの活用を担っている。 インタビュー実施日:2022年12月20日
「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」の実現に取り組む、アサヒビール株式会社 マーケティング本部イノベーション戦略部 部長 東奥 智久氏に話を伺った。
東奥 智久氏
新たな価値の創造、新市場の創出に向けた本格的な活動
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
東奥:アサヒビール株式会社では、以前から原料や資材のサプライヤーと一緒に共同で新しい価値を提供するという取り組みは行っておりましたが、2010年代に入った頃から、日本国内におけるビール類の消費数量が減少し続けている中で、業界内だけでの交流による限界を感じ始め、異業種交流や異なる分野の研究者との交流を少しずつ始めました。
具体的な形として、2019年1月に社内横断型の組織である「事業推進室」を設置しました。経営企画、マーケティング、研究開発、生産、営業の各本部から中堅社員をメンバーとして選任し、コワーキングスペースの「WeWork」にサテライトオフィスを設置するなど、社外とのオープンイノベーションによる新たな価値の創造、新市場の創出に向けた本格的な活動を開始しました。
2019年8月には、オープンイノベーションプロジェクト「AXS」(アクロス:ASAHI CROSS PROJECTs)を始動し、エコカップ「森のタンブラー」、新感覚ビアカクテル「BEER DROPS」などを生み出してきました。最近では2021年4月から発売を開始した「スーパードライ生ジョッキ缶」もオープンイノベーションにより実現した商品だと考えています。
─―オープンイノベーションプロジェクトの始動から、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
東奥:アサヒビール株式会社では、「すべてのお客さまに最高の明日を。」という長期スローガンのもと、アルコール飲料の商品を提供するだけではなく、アルコール飲料に関する様々な体験価値を提供したいと考えています。そのために当社が保有している、創って・造って・運んで・販売するバリューチェーンの強みを把握したうえで、自社だけでは実現できないような体験価値を創造することを目的にオープンイノベーションに注力することしました。 オープンイノベーションによる売上・利益などの定量的な目的・目標を設定することはしていませんが、自前主義にこだわりすぎることなく、広く社外にも情報を開示し、社外からも積極的に情報取集する中で、「生ジョッキ缶」など、いくつかの具体的な体験価値の創造ができていることや、社内でもオープンイノベーションを当たり前の手段と捉えて、技術紹介や意見交換の場を持つようになっており、当初の目的に沿った取り組みになっていると感じています。
─―技術紹介や意見交換の場を大切にしていることは素晴らしいですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
東奥:オープンイノベーションという言葉を意識したのは2010年代以降ですが、当社の商品を創って・造って・運んで・販売する中で、自社の技術だけでできることは限られており、創業時から社外の様々な方と連携しながら商品・サービスを生み出してきました。オープンイノベーションを実施していなければ、存続できていなかったと思いますし、今後はますます重要性が高まっていくものと思います。
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、商品アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
東奥:まだまだ、試行錯誤を続けているところです。社内で商品アイディアを募集するとお客さまにも大きな期待を持っていただけるものがいくつか出てくるのですが、初期的調査の結果、技術的に実現困難であるものや、実現できても販売価格が莫大になるようなものがほとんどであり、パイプラインとして登録できるものは多くありません。一方で、技術的な制約を知りすぎている中で検討したアイディアではお客さまの大きな期待には至らないことが多く、期待度と実現可能性の両立には苦慮し続けています。
─―ではその課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
東奥:「こんなことが実現できると嬉しい」とお客さまは期待しているということを常に把握しておくために、共感度や新奇性の高いコンセプトを共有する場を設けています。また、社外からの新しい素材や技術に関する情報を広く共有する場も設けています。
─―社内のパイプライン強化や外部の声を拾うことがポイントなのですね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
東奥:社内およびグループ会社における人脈を活かすほか、コワーキングスペース「Point 0 marunouchi」にサテライトオフィスを設置し、参画している企業との交流や情報収集も行っています。大企業や大学との連携をする機会が多く、スタートアップとのオープンイノベーション実績は、今のところあまり多くありません。
─―スタートアップとのオープンイノベーションがあまり多くない要因や実施に向けて取り組まれていることがあれば教えて下さい。
東奥:かつては、スタートアップの方が期待するスピード感と当社のスピード感が合わずに協業できなかったこともあったと感じています。当社もオープンイノベーションの実績が少しずつ積みあがってきており、意思決定も迅速化してきており、今後はスタートアップとの協業も増えていくと考えています。
2022年11月から、お客さまとの直接的な接点としてASAHI HAPPY PROJECTという直接販売サイトを立ち上げました。このサイトでテスト販売する商品やWEBページのデザインなどを「Wemake」を通じて個人デザイナーに依頼する取り組みも行っております。スタートアップや個人で特別な技術を持っている方々と、幅広く連携していきたいと考えています。
─―続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
東奥:オープンイノベーションを行う際には、事前に秘密保持契約を締結したうえで、当社からは積極的に情報開示するようにしています。どこから新たな価値創造が生まれるかを予想することは困難なため、制限をかけすぎないように意識しています。
また、意思決定をする際には、権限規定に沿って行うことを意識しています。慣習上、権限規定を上回る関係者への事前確認を行いがちですが、それに伴って意思決定のスピードが落ちないように注意しています。
─―意思決定のスピードに注意されているのですね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
東奥:PoCで起こりがちなことが、明確な基準のないままPoCを繰り返してしまうことだと感じていました。経営資源を投入してきた中で、中止するのはもったいないと考えてしまいがちであり、経営陣がしっかりと判断するべきだと考えています。現在は、PoCを行う際に、1.次のステップに進めるもの、2.修正して継続検討するもの、3.中止するものの3段階の評価基準をあらかじめ設定したうえで開始するようにしています。経営資源を適切に投入するために、極めて重要な意思決定のしくみと考えています。
─―PoCの評価を事前に評価基準を決めてから行うようにしているのですね。では続いて、商品化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
東奥:「スーパードライ生ジョッキ缶」の上市は、当社にとっても大きな決断でした。缶の蓋を開けるとともに内側から泡が立ち上がり、料飲店で生ジョッキを飲んでいるような体験価値を提案できる商品ですが、お客さまの家庭などにおいて、最適な温度に冷やしていただかないと泡が噴きこぼれてしまうことや、泡がほとんど出ないことが発生する懸念がありました。
社内では、お客さまがどのような冷やし方をされても安定した泡立ちを実現できるまで上市を見送るべきではないかという指摘もありましたが、缶のデザインや様々な広告宣伝の場で、最適な冷やし方・飲み方を提案するなどの最大限の対策を行ったうえで、上市するという意思決定をしました。
結果的には、多くのお客さまが、泡が噴きこぼれてしまうことも含めて、「生ジョッキ缶」の体験価値を喜んでいただくことができました。リスクと機会を可視化し、経営陣が最終的な意思決定をできるようにすることが重要であると認識しています。
─―意見が割れる中での商品化は中々難しいですね。続いて、スケール化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
東奥:当社の場合、商品開発やPoCなどのスケールから、全国で発売するような量産製造に移行する際に、原料・資材の確保や専用設備の導入などのリードタイムが1年から2年ほど必要となることが大きな課題です。これまでは、事前にしっかりと調査をしたうえで、最初から全国で一斉発売することを意思決定し、原料・資材の確保や設備投資を実施してきました。
しかし、新しい市場を創造するような商品については、事前の調査だけでは見極めきれないことも多く、現在は、小さく造って、実際にお客さまに購入いただいて見極める開発プロセスも導入し始めています。この場合、お客さまに評判がよかったと確認できてから、全国的な販売を実現するまでに1-2年を要してしまうこともあり、量産までの期間短縮が今後の課題と認識しています。
スタートアップとの協業への課題
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
東奥:商品開発において、マーケティング部門からの要請に応じて、具体的な商品コンセプトをもとに開発を行う通常の開発プロセスとは別に、部署を横断したグループで、N=1のお客さまを創造しながら開発した商品・サービスや、外部から得られた新たな原料・資材の情報を活かした商品・サービスを提案する場を設けています。業務時間の20%を通常業務とは異なる新たな価値創造のための「イノベーションデー」として活動するようにしています。
─―各部署の連携を大事にされているのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。
東奥:スタートアップとの協業実績は、まだ多くはありませんが、個人デザイナーとの協業などは始めており、大きな可能性を感じています。人と人とのつながりの中で得られた情報や知見が、個人だけに埋もれてしまわないように社内で共有する場を設けながら、活かせるものを見つけていければと考えています。
─―では最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
東奥:当社の事業拠点は国内に多数あり、事業活動を通して地方を盛り上げていきたいと考えており、地方の行政とも連携させていただきたいと希望しています。
取材対象プロフィール
アサヒビール株式会社 マーケティング本部 イノベーション戦略部 部長
東奥 智久氏
京都府出身。東京大学大学院修了。2021年4月1日より現職。
アサヒビール(株)マーケティング本部には、マーケティング部門と研究開発部門があり、東奥氏は、主に研究開発部門におけるオープンイノベーションの活用を担っている。