須崎:未来共創イノベーションネットワーク(INCF)をスタートさせた2017年はスタートアップが台頭し始め社会においても存在感が大きくなってきた頃でしたが、三菱総合研究所自身はスタートアップと関わる機会は少なく、オープンイノベーションの取り組みができていないという危機感がありました。どのようにスタートアップと関われるかを検討する中で、2016年からビジネスアイデアコンテストをスタート、さまざまな社会課題をイノベーションとビジネスで解決するアイデアを募集し始めました。現在もICFが取り組む中核プログラムの1つとしてICF Business Acceleration Programを開催しています。まずはこれらイベントに応募してくれた企業に会員になってもらうことから関係性をスタートしています。ICFそのものは事業会社ではないため、ただちに事業化することは少ないですが、ICFを通じて課題の理解を深め、事業アイデアを創出しています。そのなからより具体的な事業検討に至るものもあります。
須崎:具体的には、現在もICFが取り組む中核プログラムの1つであるICF Business Acceleration Programを開催しています。先ほどもお話しした通り、ICFでは課題の理解からスタートして事業アイデアの創出を中心に手掛けています。
課題としては、現在の事業領域を超えて幅広い領域の社会課題を捉え、事業化を考える点がありました。
豊かで持続可能な未来に競争を使命として、世界と共に、あるべき未来を問い続け、社会課題を解決し、社会の変革を先駆ける株式会社三菱総合研究所 未来共創本部本部長の須崎 彩斗氏に話を伺った。
須崎 彩斗氏
社会課題の解決に関与する
─―オープンイノベーションの取り組みを始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
須崎:未来共創イノベーションネットワーク(INCF)をスタートさせた2017年はスタートアップが台頭し始め社会においても存在感が大きくなってきた頃でしたが、三菱総合研究所自身はスタートアップと関わる機会は少なく、オープンイノベーションの取り組みができていないという危機感がありました。どのようにスタートアップと関われるかを検討する中で、2016年からビジネスアイデアコンテストをスタート、さまざまな社会課題をイノベーションとビジネスで解決するアイデアを募集し始めました。現在もICFが取り組む中核プログラムの1つとしてICF Business Acceleration Programを開催しています。まずはこれらイベントに応募してくれた企業に会員になってもらうことから関係性をスタートしています。ICFそのものは事業会社ではないため、ただちに事業化することは少ないですが、ICFを通じて課題の理解を深め、事業アイデアを創出しています。そのなからより具体的な事業検討に至るものもあります。
─―企業に会員になっていただくところから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
須崎:「新事業創造」という目標を設定しています。社会の課題解決にどう関与していけるかというところからスタートしていますが、ここで出てきたアイデアは会員各社のビジネスにも活かすことができ、新事業創造に近いと考えているからです。中期経営計画2023でも社会課題解決企業を掲げ、3年目を迎えていますが、成果としては、漸く1つ2つ芽が出てきたところでまだまだこれからですね。出資についても体制を組んで、これから本格化するというフェーズです。
ICFでの発表
─―中期経営計画でも掲げて力を入れているのですね。ではもし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
須崎:恐らく短期の収益的には特に影響は出ていなかったと思います。ただし、今後5年~10年後は徐々に厳しくなっていたのではないでしょうか。当初は社内でも疑問視する声があり、現場の協力を得にくいケースもありました。そのため、組織として外向きのみならず社内に向けても相当な情報発信を行っています。1つ2つ事例が出てきたことで社内での認知も進んできていると感じています。
社内への情報発信と共通認識
─―続いて各ステージにおける具体的な取り組みについてお伺いできればと存じます。まず、事業アイデアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取り組み内容や発生した課題などについて教えてください。
須崎:具体的には、現在もICFが取り組む中核プログラムの1つであるICF Business Acceleration Programを開催しています。先ほどもお話しした通り、ICFでは課題の理解からスタートして事業アイデアの創出を中心に手掛けています。
課題としては、現在の事業領域を超えて幅広い領域の社会課題を捉え、事業化を考える点がありました。
─―初めから事業領域を広く見るのは難しいですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
須崎:当初から分野を幅広く捉えた「イノベーションにより解決が期待される社会課題一覧(社会課題リスト)」を作成し、アップデートしながら提供しています。もともとは会員向けに作っていたものでしたが、最近では広く一般にも発信しています。社会インパクトをうみだしていくには、共通の課題認識を持たなくてはいけないと考えているからです。当社のように専門性の高い集団がいることは大きな強みですが、それだけでは十分ではなく、俯瞰的に課題を相互関係で捉える見方が必要です。
─―専門性が逆に邪魔をすることもあるのですね。続いて、連携相手の探索における具体的な取り組み内容や発生した課題などについて教えてください。
須崎:ICFはパートナーとなり得る企業が集うプラットフォームとして、社内向けに会員データベースなども公開していますが、具体的に事業部門から個別にこういう企業を探したいという相談がきます。
課題としては、会員数が500を超えているものの、ピンポイントのニーズに応えるパートナー候補が必ずしもそこに含まれるわけではないので、やはり個別に探すことも必要です。探索はなかなか容易でないので、現場ではフラストレーションがたまるかもしれません。
─―現場との連携に課題を感じている様子は他の企業様でもうかがいます。では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
須崎:いいアドバイスをくれる外の人とのネットワークを持つようにしています。自分たちがやろうとすることの方向性を示し、それに共感してもらい、ギブ&テイクの関係が作れることを目指しています。
また、さきほど述べました「社会課題リスト」を、会員のみならず社外にも発信し、課題解決にむけたビジネスを考えるステークホルダーとの会話のきっかけにしています。
─―続いて、情報交換・協業における具体的な取り組み内容や発生した課題などについて教えてください。
須崎:具体的には、一般企業とスタートアップとは仕事を進める上での時間軸が異なるため、基本的にはスタートアップに合わせるように留意しています。 これまでに立ち回りの速度が遅く、先方の要望に答えられなかったことがあり、スピーディな意思決定が重要だと感じています。
また、会社全体がスタートアップとの協業に慣れていくことも大事だと思います。プラットフォームの意義などをしっかり議論し、経営者や事業部門とすり合わせていくことが重要だと考えています。
─―スタートアップと時間軸を合わせることは中々難しいですよね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取り組み内容や発生した課題などについて教えてください。
須崎:2022年2月よりICF会員(大企業と複数スタートアップ企業)が連携して子育て応援サービスの実装に向けた取り組みを始動しています。家事育児で大変な毎日を明るく生き生きとしたものにするために、妊娠期から産後3ヶ月までの世帯を主な対象とし、主に住友生命、ユカイ工学、モシーモが本サービスを提供し、当社がICFを通じて事業検討や開発に伴走する体制で取り組みを推進していくというものです。
こうした具体的な事業開発における課題としては、当初のオープンからクローズドへ移行するタイミングが難しいことですね。PoCまでもっていく事案を作るにあたり、計画通りに進まないことも多々ありました。
こうした課題の解決のために、どの行程にどの位の時間をかけるか、しっかりとプロセスを作っていくことが重要であり、このプロセス作りに取り組んでいます。
また、ここで作ったプロセスにより課題を解決し、社会実装に繋げられるよう、事案を増やすことに取り組んでいます。
長い目で非財務価値を捉える
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
須崎:短期的ではなく、長い目で見て自分たちの力になると思えるかどうか、非財務価値の向上に繋げられるかどうかを常に考えるマインドの持ち方が重要だと考えています。
─―長い目でみることがポイントなのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。
須崎:大企業とスタートアップの連携支援においては、双方がコミュニケートできているかがポイントですね。そのためにはどの事案も手探りではありますが、何が必要なのかをしっかりと把握し、失敗も含めて経験している人材をうまく活かしていくことが大事だと考えています。
─―では、最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
須崎:人材育成・人材の流動化のしくみについては検討頂きたい。とくに兼業などの実質的な普及など。これまでの新規事業創出は、限られた才能ある人が行うイメージでしたが、人生100年時代のこれからは新規事業にあたりいかに外部の人材を活用できるかが重要になると思います。
取材対象プロフィール
株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 本部長
須﨑 彩斗氏
1996年9月に(株)三菱総合研究所に入社、研究者として事業部門にて勤務してきたが、2016年のオープンイノベーションセンター創設後、2019年同センター長、2020年に未来共創本部本部長に就任。2017年から未来共創イノベーションネットワーク(INCF)をスタートさせ、2021年4月には(株)三菱総合研究所が主催・運営するプラチナ社会研究会と統合し、新会員プラットフォーム「未来共創イニシアティブ(ICF)」をスタートさせ、その事務局長に就任している。