革新的な真空技術でエネルギーの効率化を目指す、ピアブ・ジャパン株式会社 代表取締役の吉江 和幸氏に話を伺った。 左が吉江 和幸氏 イノベーションに対する人手不足 ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 吉江:オープンイノベーションへの取組を始めたきっかけは、社内だけでは新規取引先の開拓には限界があると感じたからです。また、大手企業ほど飛び込み営業は難しく、窓口を探るにも時間がかかります。設立当初の1993年2月から独自の営業と平行して代理店を募集し、代理店企業を増やしています。現在は全国規模と地域ごとの代理店があり、アクティブに活動しているのは約30社です。 オープンイノベーションに始める前に感じていた課題としては人員不足ですね。少人数で効率的に売上高を延ばすためにはパートナー(代理店)を探し、効率よく営業基盤を開拓する必要があると考えました。 ─―新規取引先の開拓に限界を感じたところから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 吉江:目標は「収益多様化」を設定しています。理由としては、当社は親会社が製造する製品の日本販売窓口であり、営業基盤の開拓と売上利益の確保が最大の目的であるためだからです。 これらの課題を解決のために設立当初は代理店との共同営業以外に営業支援としてテレアポを外部委託し、展示会で収集した名刺の企業に対するアポイント電話をかけたこともありましたが、アポイントの取得率が低く、効率が悪いため、最近では行っていませんね。 ─―売上利益の確保を最大の目的とされているのですね。ではもし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 吉江:自社単体で取り組んでいた場合、問い合わせ企業に対するフォロー等の人員が不足し、目標の売上高や利益を確保することができないと思います。また、情報収集も単体では限界がありますね。大手企業は代理店を窓口にしないと取引ができないこともあり、大手企業への新規開拓が困難であったと思います。 自社情報の開示で契約に繋がるパートナーの探索 ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 吉江:事業規模拡大のため、ある企業の企業買収を提案したことがあり、親会社で対象としている企業を分析して買収した場合のシミュレーションを行ったことがあります。その結果、対象企業が固定費過多により採算性が低いと判断され、買収は実現しませんでした。 原因としては、確実に収益を出すことが重要視されるため、今回のビジネスモデルでは損益面での効率が悪いと判断されたのだと思います。 ─―ではそういった原因解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 吉江:行動の全てをレビューし、問題点について検証することですかね。検証した内容を踏まえて次につなげるようにしています。 また、経験及び問題点を掘り下げて検証し、ノウハウを伝承するようにしています。 ─―続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 吉江:エンジニアリング力のある代理店を探していますが、既に競合企業とパートナーとなっている場合は、双方との代理店にはなれないことが一般的ですので、別の企業を探さなければならないですね。具体的な探索方法としては、社外イベントの参加、担当者が個別にスタートアップとコネクションを作る取り組みもしています。 課題としては、パートナー(代理店)となる企業と当社との考え方の相違が発生し、契約に至らないことです。 ─―契約に至るまでには中々難しいですよね。では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 吉江:製品セミナーを開催したり、成功事例を開示したりなど、あらかじめ最低限把握しておいてもらいたい商品知識や情報を提供し、相互に良い影響がでるような連携をとる事に務めています。 また、自社から交流イベントに出席し、イベントに出席したら、積極的に他社の出席者とコンタクトをとり、情報を収集しています。 製品セミナーの様子 ─―続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 吉江:具体的には、大規模なプロジェクトの場合はNDAを結びますが、スピードを重視して行動しています。 NDA締結においては、大企業との契約は先方の契約書フォーマットをベースに微調整に留めるなど、必要書類の作成の時間短縮に努めるようにしています。この他にも、効率的にNDAを締結するのが困難な場合は一般的な契約に切り替えることや、パートナー(代理店)との連携強化や情報交換を行っています。 ─―必要書類に時間がかかるといった意見は他の企業様でもうかがいます。では、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 吉江:代理店から提供された案件でも内容及び実現の可能性を確認し、内容説明の不十分なものには着手しないようにしています。 分析が不十分のまま、やみくもに着手しても非効率ですので、内容について分析・熟考し、取り組むかそうでないかを早期に見極める事が重要だと考えています。 また、具体的に何をするかを明確にし、見通しを立てて仮定と検証をしてから確実に実行するようにしています。目標を明確にし、時代とともに思考を変える必要があると思います。 ─―時代の変化に合わせて思考を変えるという考えは素晴らしいですね。では、事業化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 吉江:具体的には設備会社と協力して物流センター向けのシステムとして当社の製品が採用されている機械を納入し、消耗品として継続的に利用されるようにすることです。例えば、倉庫会社のピッキングシステムには当社の製品が採用されています。 課題としては、成功事例と同様の業界にアプローチをしますが、既に同業他社の製品が採用されていて、特に当社製品に切り替える必要が無いとの理由で、契約には至らないことがありました。結果が伴わない場合は原因と結果を丁寧に見直し、解決策を見出す事が必要であると思います。 こうした課題の解決のために、現場の問題点と伝えられた内容に差異があると対応に無駄に時間がかかるため、現場の問題点の把握と絞り込みが必要だと考えています。 ─―では、スケール化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 吉江:スケール化においては、不良品が出てしまったことですね。親会社の製造プロセスを見直し、再発防止に努めました。また、親会社がリコールの手続きを行い、代替品を手配して対処しました。 こうした経験から、問題が発生してしまった内容を共有し、なぜ問題が発生したかを分析しました。 提案とトライアルの繰り返しで信頼を得る ─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。 吉江:コンプライアンスやセキュリティチェックは大企業の方が厳しいことが多く、契約書は大企業のひな形を元に調整をすることで時間の短縮に努めています。また、スピード(効果)をあげる為に人員を増加していますね。 ─―契約書類は企業によって厳しく細かなことが多いですよね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。 吉江:スタートアップと取引をする場合は事前の与信調査を徹底しています。また本格的に事業化するまでには提案とトライアルを繰り返し、信頼を獲得して本格化に繋げています。 ─―事前の与信調査がポイントなのですね。最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。 吉江:業界ごとのセミナー、会合等の機会を多く企画し、情報を提供してほしいです。また、今回のアンケートの様な行政が集めた情報は継続的に活用して成果につなげてほしいと思います。 取材対象プロフィール ピアブ・ジャパン株式会社 代表取締役吉江 和幸氏 海外親会社の製品を日本の企業に対して販売しているが、従業員は10名で日本全国の企業を対象に営業活動を行う為、自社のみでは売上規模の拡大には限界があり、パートナーとして代理店(複数社)と共同で課題を解決し、受注確保に努めている。オープンイノベーションの専門部署ではないが、営業部が代理店との営業を担っている。担当者は営業部の5名である。夫々が中途採用で当社に入社しており、現場(営業)で実践し、当社の商品である真空の技術を学び、技術者としてのスキルを身に着けている。当社が直接抱える案件での取引先に対する提案営業のほか、代理店と協力した営業開拓を行い、取引先の需要に対する提案を行う。 インタビュー実施日:2022年11月22日
革新的な真空技術でエネルギーの効率化を目指す、ピアブ・ジャパン株式会社 代表取締役の吉江 和幸氏に話を伺った。
左が吉江 和幸氏
イノベーションに対する人手不足
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
吉江:オープンイノベーションへの取組を始めたきっかけは、社内だけでは新規取引先の開拓には限界があると感じたからです。また、大手企業ほど飛び込み営業は難しく、窓口を探るにも時間がかかります。設立当初の1993年2月から独自の営業と平行して代理店を募集し、代理店企業を増やしています。現在は全国規模と地域ごとの代理店があり、アクティブに活動しているのは約30社です。
オープンイノベーションに始める前に感じていた課題としては人員不足ですね。少人数で効率的に売上高を延ばすためにはパートナー(代理店)を探し、効率よく営業基盤を開拓する必要があると考えました。
─―新規取引先の開拓に限界を感じたところから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
吉江:目標は「収益多様化」を設定しています。理由としては、当社は親会社が製造する製品の日本販売窓口であり、営業基盤の開拓と売上利益の確保が最大の目的であるためだからです。
これらの課題を解決のために設立当初は代理店との共同営業以外に営業支援としてテレアポを外部委託し、展示会で収集した名刺の企業に対するアポイント電話をかけたこともありましたが、アポイントの取得率が低く、効率が悪いため、最近では行っていませんね。
─―売上利益の確保を最大の目的とされているのですね。ではもし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
吉江:自社単体で取り組んでいた場合、問い合わせ企業に対するフォロー等の人員が不足し、目標の売上高や利益を確保することができないと思います。また、情報収集も単体では限界がありますね。大手企業は代理店を窓口にしないと取引ができないこともあり、大手企業への新規開拓が困難であったと思います。
自社情報の開示で契約に繋がるパートナーの探索
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
吉江:事業規模拡大のため、ある企業の企業買収を提案したことがあり、親会社で対象としている企業を分析して買収した場合のシミュレーションを行ったことがあります。その結果、対象企業が固定費過多により採算性が低いと判断され、買収は実現しませんでした。
原因としては、確実に収益を出すことが重要視されるため、今回のビジネスモデルでは損益面での効率が悪いと判断されたのだと思います。
─―ではそういった原因解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
吉江:行動の全てをレビューし、問題点について検証することですかね。検証した内容を踏まえて次につなげるようにしています。
また、経験及び問題点を掘り下げて検証し、ノウハウを伝承するようにしています。
─―続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
吉江:エンジニアリング力のある代理店を探していますが、既に競合企業とパートナーとなっている場合は、双方との代理店にはなれないことが一般的ですので、別の企業を探さなければならないですね。具体的な探索方法としては、社外イベントの参加、担当者が個別にスタートアップとコネクションを作る取り組みもしています。
課題としては、パートナー(代理店)となる企業と当社との考え方の相違が発生し、契約に至らないことです。
─―契約に至るまでには中々難しいですよね。では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
吉江:製品セミナーを開催したり、成功事例を開示したりなど、あらかじめ最低限把握しておいてもらいたい商品知識や情報を提供し、相互に良い影響がでるような連携をとる事に務めています。
また、自社から交流イベントに出席し、イベントに出席したら、積極的に他社の出席者とコンタクトをとり、情報を収集しています。
製品セミナーの様子
─―続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
吉江:具体的には、大規模なプロジェクトの場合はNDAを結びますが、スピードを重視して行動しています。
NDA締結においては、大企業との契約は先方の契約書フォーマットをベースに微調整に留めるなど、必要書類の作成の時間短縮に努めるようにしています。この他にも、効率的にNDAを締結するのが困難な場合は一般的な契約に切り替えることや、パートナー(代理店)との連携強化や情報交換を行っています。
─―必要書類に時間がかかるといった意見は他の企業様でもうかがいます。では、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
吉江:代理店から提供された案件でも内容及び実現の可能性を確認し、内容説明の不十分なものには着手しないようにしています。
分析が不十分のまま、やみくもに着手しても非効率ですので、内容について分析・熟考し、取り組むかそうでないかを早期に見極める事が重要だと考えています。
また、具体的に何をするかを明確にし、見通しを立てて仮定と検証をしてから確実に実行するようにしています。目標を明確にし、時代とともに思考を変える必要があると思います。
─―時代の変化に合わせて思考を変えるという考えは素晴らしいですね。では、事業化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
吉江:具体的には設備会社と協力して物流センター向けのシステムとして当社の製品が採用されている機械を納入し、消耗品として継続的に利用されるようにすることです。例えば、倉庫会社のピッキングシステムには当社の製品が採用されています。
課題としては、成功事例と同様の業界にアプローチをしますが、既に同業他社の製品が採用されていて、特に当社製品に切り替える必要が無いとの理由で、契約には至らないことがありました。結果が伴わない場合は原因と結果を丁寧に見直し、解決策を見出す事が必要であると思います。
こうした課題の解決のために、現場の問題点と伝えられた内容に差異があると対応に無駄に時間がかかるため、現場の問題点の把握と絞り込みが必要だと考えています。
─―では、スケール化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
吉江:スケール化においては、不良品が出てしまったことですね。親会社の製造プロセスを見直し、再発防止に努めました。また、親会社がリコールの手続きを行い、代替品を手配して対処しました。
こうした経験から、問題が発生してしまった内容を共有し、なぜ問題が発生したかを分析しました。
提案とトライアルの繰り返しで信頼を得る
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
吉江:コンプライアンスやセキュリティチェックは大企業の方が厳しいことが多く、契約書は大企業のひな形を元に調整をすることで時間の短縮に努めています。また、スピード(効果)をあげる為に人員を増加していますね。
─―契約書類は企業によって厳しく細かなことが多いですよね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。
吉江:スタートアップと取引をする場合は事前の与信調査を徹底しています。また本格的に事業化するまでには提案とトライアルを繰り返し、信頼を獲得して本格化に繋げています。
─―事前の与信調査がポイントなのですね。最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
吉江:業界ごとのセミナー、会合等の機会を多く企画し、情報を提供してほしいです。また、今回のアンケートの様な行政が集めた情報は継続的に活用して成果につなげてほしいと思います。
取材対象プロフィール
ピアブ・ジャパン株式会社 代表取締役
吉江 和幸氏
海外親会社の製品を日本の企業に対して販売しているが、従業員は10名で日本全国の企業を対象に営業活動を行う為、自社のみでは売上規模の拡大には限界があり、パートナーとして代理店(複数社)と共同で課題を解決し、受注確保に努めている。オープンイノベーションの専門部署ではないが、営業部が代理店との営業を担っている。担当者は営業部の5名である。夫々が中途採用で当社に入社しており、現場(営業)で実践し、当社の商品である真空の技術を学び、技術者としてのスキルを身に着けている。当社が直接抱える案件での取引先に対する提案営業のほか、代理店と協力した営業開拓を行い、取引先の需要に対する提案を行う。