多種多様な産業分野で使用される「軸受(ベアリング)」を製造・販売している「総合すべり軸受メーカー」、大同メタル工業株式会社に話を伺った。 アクセラレータプログラムで新製品の開発「スペースリー」 ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 2018年度に策定した新中期経営計画の4つの柱の1つに掲げた「新規事業の創出・育成」に基づいています。当社は内燃機関としてのエンジンの軸受を主要な製品としていますが、EV化に伴い将来製品需要が減少する見込みにあることから、これに代わる事業の柱を創出する必要を感じていました。 同年度中に日本政策投資銀行が運営する新規事業創出プログラム「東海オープンアクセラレーター」に参画してスタートアップである株式会社スペースリーと共に製品開発を行いましたが、現在東京支店で担当している「スペースリー」の事業となっています。製品の「スペースリー」はVR研修の為のソフトで、実証実験では「研修習熟度43%アップ」、「研修業務の33%効率化」といった結果を得て、2020年10月1日よりライセンス販売という形で製品化に漕ぎつけました。 ─―主力商品に代わる事業の柱の創出から、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 目的は「新事業創出」を設定しています。その動機としては、先に述べたように自動車のEV化の潮流を踏まえ、収益多様化を図る必要性があったからですね。現在、オープンイノベーションの利用により事業化に漕ぎつけたのは前述の「スペースリー」のみですが、その販売状況・実績までは把握しておらず、評価するには時期尚早だとは感じています。 しかしながら事業化の実績を残し、経験値を積むことができたのは大きな一歩と感じており、今後も新事業創出を年頭にさらに開発案件を探す方向性です。「スペースリー」はソフトウェアであり、当社の事業内容からするとまだまだ柱になるような製品ではありませんが、引続き新製品、新事業の開発もできればと思っています。 ─―ではもし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 自社単体で「スペースリー」のリリースや自社内での活用はできなかったと思います。ソフトウェアという異業種の技術なので、自力では製品化には至りませんでした。 仮に自力で開発を手掛け、製品化に至らなかったとしても会社の存続を危うくする訳ではありませんが、今回のオープンイノベーションの利用が1つの成功体験となり、社内的な風土として新事業への取り組みを進める素地を形成できたので、次の開発につなげたいと思っています。 自社の強みを活かす協業 ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 既存事業に囚われず、かつ、当社の強みを出せるものか否か、協業の効果を出せるか否かを検討しました。課題については特にありません。 ─―自社の強みが出せるかどうかは大切ですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 事業アイディアの収集・技術の棚卸を実施し、共有・采配する窓口を設置しました。また、情報収集・検討の強化を行っています。 ─―続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 探索における取組としては、展示会でのアピールを最大の手段としています。直近の一例として、2022年3月16日~18日に東京ビックサイトで開催された「第26回機械要素展(M-Tech)」にも出展しました。 課題としては、出展する展示会の情報が乏しいことですね。どのような展示会に出展するのが効率の良い探索につながるか、ノウハウを有していないことが課題です。 また、引続き展示会で情報収集に努めるほか、実際に体験できるように紹介したいと思っています。 ─―出店する展示会の情報があると効率的な協業相手の探索に繋がりますよね。続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 スタートアップとは強みと弱み、できることとできないことの擦り合わせを綿密に行いました。社内プロジェクトを進め、事業性が見えてきた段階で当社からプロジェクト選任の担当者を据えるようになったことで、開発が円滑になっていきました。 「スペースリー」に、当社の強みをどれだけ生かせるか、そして、協業の効果をどれだけ出せるかが課題でした。また、現在オープンイノベーションで進めているプロジェクトは、コロナ禍で打ち合せ・意見交換のスピードが落ちたこともありました。 こうした課題の解決のために、Web会議システムを利用して極力活発な意見交換の手段を確保しています。これは擦り合わせの重要さを認識した前回の教訓によって取り組んでいます。 ─―協業相手との摺り合わせは大切ですよね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 具体的な取り組みとしては、実証実験の検証を綿密に行いました。 課題としては、実証実験を終え、社内やスタートアップとの間では、成果について盛り上がりましたが、どの程度の成果をもって事業性を評価するか基準がなかったことですね。また、そこから事業化に進んでいくプロセスに関してノウハウもありませんでした。 ノウハウがないなりに市場投入に漕ぎつけたので、これといった取組はしませんでした。ただし、弊社内の新入社員教育現場にて、VRを活用した現場実証を行いました。現場感覚を学ぶには、座学や動画だけでは不十分という根本的な課題に対し、製造現場での作業者の目線や手順を自身が体験しながら進められるクイズ形式を用いた独自のVR研修コンテンツを通じ、VR活用の有効性を検証いたしました。 現時点では開発から実証実験、事業化、スケール化に向かうフェーズに際して、課題も収集段階なので、解決や取組については模索中というのが正直なところです。 専任担当者を設けて開発スピードを上げる ─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。 研究開発のフェーズ以降、連携相手の手法・ノウハウ・技術が明確に把握されていくのに対し、当社の人材で対応できるもの、できないものも明確になっています。そうした中で、当社側が得意とする部分では、専任担当者を据えて、相手との折衝、協同を行うことがスピードアップにつながったと思います。非選任の担当者を交えてマンパワーを発揮することも必要で、長所や得意分野を活かした人員配置が総体的な力につながったと思います。 ─―自社の得意分野では専任担当者を設けることがポイントなのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。 スタートアップと協業する上では、経営層と連携できる部署とプロジェクトチームとの協業連携も重要だと思っています。 ─―では最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。 スタートアップが活性化するような集まりに、企業側が入っていきやすいような仕組みづくりをお願いしたいです。 インタビュー実施日:2022年11月18日
多種多様な産業分野で使用される「軸受(ベアリング)」を製造・販売している「総合すべり軸受メーカー」、大同メタル工業株式会社に話を伺った。
アクセラレータプログラムで新製品の開発「スペースリー」
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
2018年度に策定した新中期経営計画の4つの柱の1つに掲げた「新規事業の創出・育成」に基づいています。当社は内燃機関としてのエンジンの軸受を主要な製品としていますが、EV化に伴い将来製品需要が減少する見込みにあることから、これに代わる事業の柱を創出する必要を感じていました。
同年度中に日本政策投資銀行が運営する新規事業創出プログラム「東海オープンアクセラレーター」に参画してスタートアップである株式会社スペースリーと共に製品開発を行いましたが、現在東京支店で担当している「スペースリー」の事業となっています。製品の「スペースリー」はVR研修の為のソフトで、実証実験では「研修習熟度43%アップ」、「研修業務の33%効率化」といった結果を得て、2020年10月1日よりライセンス販売という形で製品化に漕ぎつけました。
─―主力商品に代わる事業の柱の創出から、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
目的は「新事業創出」を設定しています。その動機としては、先に述べたように自動車のEV化の潮流を踏まえ、収益多様化を図る必要性があったからですね。現在、オープンイノベーションの利用により事業化に漕ぎつけたのは前述の「スペースリー」のみですが、その販売状況・実績までは把握しておらず、評価するには時期尚早だとは感じています。
しかしながら事業化の実績を残し、経験値を積むことができたのは大きな一歩と感じており、今後も新事業創出を年頭にさらに開発案件を探す方向性です。「スペースリー」はソフトウェアであり、当社の事業内容からするとまだまだ柱になるような製品ではありませんが、引続き新製品、新事業の開発もできればと思っています。
─―ではもし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
自社単体で「スペースリー」のリリースや自社内での活用はできなかったと思います。ソフトウェアという異業種の技術なので、自力では製品化には至りませんでした。
仮に自力で開発を手掛け、製品化に至らなかったとしても会社の存続を危うくする訳ではありませんが、今回のオープンイノベーションの利用が1つの成功体験となり、社内的な風土として新事業への取り組みを進める素地を形成できたので、次の開発につなげたいと思っています。
自社の強みを活かす協業
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
既存事業に囚われず、かつ、当社の強みを出せるものか否か、協業の効果を出せるか否かを検討しました。課題については特にありません。
─―自社の強みが出せるかどうかは大切ですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
事業アイディアの収集・技術の棚卸を実施し、共有・采配する窓口を設置しました。また、情報収集・検討の強化を行っています。
─―続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
探索における取組としては、展示会でのアピールを最大の手段としています。直近の一例として、2022年3月16日~18日に東京ビックサイトで開催された「第26回機械要素展(M-Tech)」にも出展しました。
課題としては、出展する展示会の情報が乏しいことですね。どのような展示会に出展するのが効率の良い探索につながるか、ノウハウを有していないことが課題です。
また、引続き展示会で情報収集に努めるほか、実際に体験できるように紹介したいと思っています。
─―出店する展示会の情報があると効率的な協業相手の探索に繋がりますよね。続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
スタートアップとは強みと弱み、できることとできないことの擦り合わせを綿密に行いました。社内プロジェクトを進め、事業性が見えてきた段階で当社からプロジェクト選任の担当者を据えるようになったことで、開発が円滑になっていきました。
「スペースリー」に、当社の強みをどれだけ生かせるか、そして、協業の効果をどれだけ出せるかが課題でした。また、現在オープンイノベーションで進めているプロジェクトは、コロナ禍で打ち合せ・意見交換のスピードが落ちたこともありました。
こうした課題の解決のために、Web会議システムを利用して極力活発な意見交換の手段を確保しています。これは擦り合わせの重要さを認識した前回の教訓によって取り組んでいます。
─―協業相手との摺り合わせは大切ですよね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
具体的な取り組みとしては、実証実験の検証を綿密に行いました。
課題としては、実証実験を終え、社内やスタートアップとの間では、成果について盛り上がりましたが、どの程度の成果をもって事業性を評価するか基準がなかったことですね。また、そこから事業化に進んでいくプロセスに関してノウハウもありませんでした。
ノウハウがないなりに市場投入に漕ぎつけたので、これといった取組はしませんでした。ただし、弊社内の新入社員教育現場にて、VRを活用した現場実証を行いました。現場感覚を学ぶには、座学や動画だけでは不十分という根本的な課題に対し、製造現場での作業者の目線や手順を自身が体験しながら進められるクイズ形式を用いた独自のVR研修コンテンツを通じ、VR活用の有効性を検証いたしました。
現時点では開発から実証実験、事業化、スケール化に向かうフェーズに際して、課題も収集段階なので、解決や取組については模索中というのが正直なところです。
専任担当者を設けて開発スピードを上げる
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
研究開発のフェーズ以降、連携相手の手法・ノウハウ・技術が明確に把握されていくのに対し、当社の人材で対応できるもの、できないものも明確になっています。そうした中で、当社側が得意とする部分では、専任担当者を据えて、相手との折衝、協同を行うことがスピードアップにつながったと思います。非選任の担当者を交えてマンパワーを発揮することも必要で、長所や得意分野を活かした人員配置が総体的な力につながったと思います。
─―自社の得意分野では専任担当者を設けることがポイントなのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。
スタートアップと協業する上では、経営層と連携できる部署とプロジェクトチームとの協業連携も重要だと思っています。
─―では最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
スタートアップが活性化するような集まりに、企業側が入っていきやすいような仕組みづくりをお願いしたいです。